LEDとCMOSイメージセンサによる光カメラ通信

1. はじめに

Optical Camera Communication(OCC)とは,送信機にLEDやディスプレイのような光源,受信機にカメラを用いた可視光通信のことである。送信機として3色LEDを用い,データを光信号へと変調して送信するのが,最も一般的な適用形態と言える。受信側の動作としては,カメラで撮影した動画像の中から光源の占めるピクセルを抽出し,当該領域のRGB値などから信号を復調する(図1)。

OCCの適用により,スマートフォン等をはじめとしたLEDライトやカメラを搭載したスマートデバイスのほか,照明やWebカメラなど既存のデバイスを用いて通信を行えるようになる。すなわち,スマートフォン等を用いた日常生活での簡易的な通信に加え,室内灯などを用いた照明機能と通信機能の両立,自動運転などをサポートするV2X通信など,様々な場面での応用が可能と考えられる。

OCCの特徴としては,送受信機が比較的安価であること,Wi-Fiなどの電波と異なり壁などによる遮蔽の影響が大きく,盗聴などの攻撃に強い,といったメリットがある。

一方で,光信号の受信レートがカメラのフレームレートに律速されるため,通信レートが一般的に低速である点には留意する必要がある。ただしこの点については,Wi-Fiなど他のチャネルと組み合わせて特定の制御信号にOCCを利用するなど,使い方でカバーすることが可能と考えられる。

図1 CMOSイメージセンサによる光信号の受信
図1 CMOSイメージセンサによる光信号の受信

また現段階では,環境光などの外部環境の変化に対応する手法が未確立であるため,LEDの色を利用して変調を行うColor Shift Keying (CSK)と呼ばれる変調方式を用いた際に,環境によっては色を誤認識する可能性がある,といった課題がある。もう一つOCCの大きな特長として,CSMA/CAのような同一チャネル干渉回避機構が不要であることから光源の追加とともにスループットを増加可能であり,複数光源を用いた一対多通信に適する点が挙げられる。

ただし,複数光源の信号を同時に撮影する際には画像上での光源の物理的な重なり,すなわち光源間干渉を回避する必要がある。

これらの課題に対して,筆者らはいくつかの観点から研究を進めている。本稿では具体的な取り組みとして,

(1)光源間干渉のモデル化
(2)適応的CSK
(3)なりすましを防ぐセキュアなデバイス認証への利用

について紹介する。

2. 光源間干渉モデル

図2 環境による光の拡散(Blooming effect)の違い
図2 環境による光の拡散(Blooming effect)の違い

OCCでは,CMOSイメージセンサを用いて光信号を受光し,画像内で光源に該当する領域の画素ごとのRGB値を用いて信号の復調を行う。このとき,複数の光源が画像上で重なっていれば光の重なり,あるいは光源そのものの遮蔽により干渉が起こる。そして機種や環境によ ってはさらに,Blooming effectと呼ばれる光の拡散現象による干渉が生じる(図2)。

この課題に対して筆者らは,カメラと物体の座標と近似的なサイズに加えて,画素数やCMOSイメージセンササイズ,画角などカメラのパラメタを考慮し,透視変換などの数学的手法により画像上での干渉条件を理論的に定式化した1)

さらに,Blooming effectを考慮した画像上での光の減衰を表す近似式を新たに考案した。実際に複数のカメラおよび外部環境において実験を行い,少数のパラメタをフィッティングさせることで,これらの理論式が実環境において成立することを確認した。OCCの干渉について理論的に扱った研究は少なく,本研究は先駆的な取り組みであると言える。

さらに提案モデルの具体的な適用事例として,複数のドローンを用いた一対多通信2)において,光源間干渉を避けるようにドローンを移動させるアルゴリズムについても検討している3)

GPS等により測位できる世界座標と画像上での座標とを対応させ,画像上で他の光源を避けるような実世界上での迂回行動などにより,システム全体としてリンク断が生じないような制御を行う。提案アルゴリズムの有効性についてはマルチエージェントシミュレーションにより確認しており,今後は実機を用いた実験を行う予定である。

3. 適応的CSK

図3 CIE1931における(N+1)-CSKの色シンボル
図3 CIE1931における(N+1)-CSKの色シンボル

OCCの変調方式の中でも,3色LEDの特徴を生かしたCSKは,スループット向上の観点から注目されている。 CSKとはすなわち,RGBの3色LEDの発光強度を変えて8色や16色など複数の色を表現し,各色をビット列に対応させる変調方式である。CSKで用いる色の表現には, CIE1931で定義された色空間を用いる。

CIE1931 は,電磁可視スペクトルにおける波長の分布と,人間の色覚における知覚色との間で初めて国際照明委員会によって定義された,定量的な色空間のことである。撮影カメラによってコンスタレーションの三角形は異なり,三角形の外の色に対しては三角形内部に補正される。CSKではこの三角形内に距離が最大となるようなシンボルを設けることで,シンボル間の干渉を防いだ通信を行う。

ただしOCCでは,画像全体の中で光源が占める領域を特定し,当該領域内のRGB値から信号を復調することから,光源として用いるLEDパネル自体の色や,カメラの機種に依存した特性,屋内か屋外かといった外部環境によって,特定の色を識別しにくくなる場合がある。この課題に対して筆者らは,色シンボルを余分に用意しておき,環境に応じて通信に利用する色を変化させる適応的CSKを提案している4)

従来のCSKに対して1つ多い色シンボルを用意する(N+1)CSKでは,実環境下で読み取り精度が最も低い色シンボルを除外したN色でデ ータ伝送を行う(図3)。提案手法により,通常のCSKと比較してBit Error Rate(BER)を最大で3~4桁向上させることに成功しており,様々な環境下で高精度な通信を実現することができる。

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