4. 自在に波面制御が可能なオプティックス
オゾン回折格子は,入射してくる平面波を平面波のまま制御する。しかし原理的には,回折光学素子であれば,その構造次第でいかなる波面でも生成可能なはずである。そこで最近では,紫外レーザーの照射パターンを不等間隔の湾曲した縞構造にすることで,同じようにオゾンガスを使っていわゆる“レンズ”を作ることにも成功している。この縞構造自体は紫外レーザーの平面波と球面波の干渉によって作られ,ガスレンズに入射したレーザー光はフレネルゾーンプレートを通過した時のように回折しながら集光されることになる。
この場合,ガス光学素子に入射する平面波は球面波となるわけである。もちろん,レンズの焦点距離は作られる縞の曲率を操作することで自在に変更することができる。また,集光性能としては縦横方向ともにM2=1.1という理想的な集光条件のものも出来上がってきている。紫外レーザーの照射パターンがそのままガス中で生成される密度変調構造となれるわけではないが,平面波を円筒波にすることも可能である。言い換えれば,このガス光学素子には波面の選択機能を持たせることができる。
さらには,紫外レーザー光の干渉によって作られる干渉縞は非常に高精度であるために,回折後の波面は必ず“きれいな”波面になる。極端な例を図5に示そう。まず,被回折レーザーの方の光路に歪んだ透明の板を挿入し,わざと波面を歪ませた状態をつくる。この波面を回折させると,もちろん回折効率は上がらない。しかし0次透過光と1次光回折光の遠視像を観測すると,入射波面の歪んだ部分が0次側に残り,波面のうちきれいな成分は1次光として回折されていることがよくわかる。
これらの特徴を利用すれば,例えば従来の長焦点のレンズペアとその間に配置されるピンホールで構成されているレーザー光の空間フィルターがあるが,ガス光学素子では単に回折させるだけで高品質波面のみ選択出来てしまう。波面歪みの大きな高出力レーザーにおいては,最終光学系にその歪みをとるガスレンズを設計して入れれば,現在レーザー光増幅前に入れている補償光学素子もいらなくなる。これらの用途では大幅にレーザーシステムを小型化できるだろう。
また,パルスレーザー加工システムの最終光学素子となるレンズとしても役に立つ。図6のように,レーザー加工では加工対象物にレーザーをレンズで強く集光することで加工を行うが,その際,加工部で高温の融解物(デブリ)が発生し,これがレンズに付着することでレンズ透過率の低下や,損傷の原因となることが問題となっている。ガスレンズの場合は回折によって光路が曲がるので,レーザーシステム側に直進するデブリの影響を受けずに済み,レーザーのメンテンナンスからも解放される,全く新しい集光システムとなりうる6)。