1. はじめに
本稿ではガラス構造を設計することで新たな光機能ガラスを開発する試みについて紹介する。ガラス材料は光学レンズや光ファイバーなど,光学実験には欠かせない素材の一つである。SiO2やBK7など多成分系の酸化物のほか,ZBLANなどのフッ化物,中赤外用途であればカルコゲナイドガラスなど様々な種類のガラスが光学分野において使用されている1)。
典型的には,ガラスは高温でドロドロの水飴状に溶けた高粘性融液を冷やして固化することで得られる。ガラスを高温で軟化させることで,容易にプレス成形したり引き伸ばすことでファイバーにすることができる。ガラスは紫外から可視,中赤外域に至るまで(ガラスによっては長赤外まで)広い波長域で高い透明性を持ち,光学的均質性が高く,硬さや熱的・化学的耐久性等にも優れている。
また,ガラス材料はあらゆる元素を任意の量で含有させることにより屈折率・分散など様々な物性を緻密に設計することができるため,複雑な組成比からなる多成分系のガラス材料が実用に供されている。フォトニクス分野においても,光を透過,屈折させるだけでなく,ガラス材料のさらなる高機能化に向けた研究が盛んに行われている。表面処理やナノインプリントなどの形状制御による外部構造へのアプローチと2),ガラス内部のランダムな構造の中に何らかの特徴を設計する内部構造へのアプローチが考えられるが,本稿ではガラスの内部構造を中心に取り上げる。
ガラスと単結晶や透明セラミックスに代表される結晶材料を比べると,構成する元素や透明性,物性など共通する部分は多い。結晶は規則的な原子配列を持つことが特徴である。この原子配列に起因して,例えば強誘電性や強磁性,二次光非線形性が現れる。また,レーザーや蛍光体のホスト材料としても,発光中心の周囲の配位環境の予測が容易かつサイトのばらつきが少ないことはメリットである。
一方,ガラスを原子スケールで見ると,最近接原子はある程度の規則性を持っているが,中長距離には不規則に配列した構造をとっている。このことは機能性の観点からはガラスに不利なようであるが,必ずしもそうではない。例えば,ガラスの構造的自由度を利用して,ランダムな構造を引き伸ばして配向させることで,ガラスにゴム弾性や巨大な光学異方性を発現させたり2),組成の自由度を利用して,多量の希土類イオンを添加することで典型的な磁気光学結晶であるTb3Al5O12(TAG)単結晶を上回る磁気光学特性(ファラデー係数)を示すTb含有ガラスなども報告されている3)。
このように,ガラスの構造や組成をうまく設計することで,飛び抜けた性能やユニークな機能性のガラスを開発することができる。