2次元複屈折分布の高速・高解像イメージング技術

5. 実用化にむけて

図9 実用化のイメージ
図9 実用化のイメージ

我々が提案している複屈折プロファイラーは,“複屈折-光強度変換”原理に基づいて,高速で高解像の2次元複屈折分布測定を可能にしており,図9に示すようにラボのデスクトップや生産現場などへの導入が期待できる。前節で例示したように適用可能な観察対象は多岐に亘る。これらは,製品開発や品質管理などのシーンにおいて,簡便に有効な情報を得る手段となりうると考えられる。例えば,顕微鏡のような観察評価ツールの一つとして導入することで,スムーズな研究・開発をサポートできる。

一方で,原反フィルムのような大面積の対象物については,露光系と検出系でフィルムをはさみこむように配置して,リアルタイムの全面検査の実現が期待できる。もちろん,ある程度の幅の露光系・検出系のペアをフィルムの幅方向に連結して,全面検査を行うことになるが,前述の“複屈折-光強度変換”原理に基づいて情報処理に負荷が少ないため,リアルタイム処理が可能であると考えられる。

6. まとめ

本稿では,偏光回折格子の回折特性に着目した回転操作不要の高速・高解像の2次元複屈折プロファイラーについて,その基本となる“複屈折-光強度変換”原理を中心に,試作機の作製と多様な適用例について紹介した。最大のアドバンテージは,簡単に高解像の複屈折イメージングが実現できる点である。“複屈折-光強度変換”原理に基づいて,2次元の複屈折分布が光強度分布に変換されるため,エイリアシングされたような不自然な観察像ではなく,鮮明な複屈折イメージを得ることができる。

これにより開発現場での被測定物の鮮明なイメージをユーザーに提供することができる。また,製造現場では製品の評価における微妙なニュアンスも表現できることになり,高いレベルでの品質管理に貢献できる可能性がある。実用に資する複屈折測定装置を実現することを目標にさらなる改良を行う予定であり,今後の応用展開が期待できる。

※本誌7月号に「動画による解説がWEBでご覧いただけます」とありますが,今号の動画解説はありません。大変失礼いたしました。

参考文献
1)L. Nikolova and P. S. Ramanujam, “Polarization Holography,” Cambridge University Press, 2009, Cambridge.
2)F. Lagugne Labarthet, T. Buffeteau, and C. Sourisseau, “Azopolymer holographic diffraction gratings: Time dependent analysis of the diffraction efficiency, birefringence, and surface modulation induced by two linearly polarized interfering beams,” J. Phys. Chem. B 103, 6690-6699 (1999).
3)H. Ono, A. Emoto, F. Takahashi, N. Kawatsuki, and T. Hasegawa, “Highly stable polarization gratings in photocrosslinkable polymer liquid crystals,” J. Appl. Phys. 94, 1298-1303 (2003).
4)A. Emoto, T. Wada, T. Shioda, T. Sasaki, S. Manabe, N. Kawatsuki, and H. Ono, “Vector gratings fabricated by polarizer rotation exposure to hydrogen-bonded liquid crystalline polymers,” Jpn. J. Appl. Phys. 50, 032502 (2011).
5)E. Hasman, Z. Bomzon, A. Niv, G. Biener, and V. Kleiner, “Polarization beam-splitters and optical switches based on space-variant computer-generated subwavelength quasi-periodic structures,” Opt. Commun. 209, 45-54 (2002).
6)特願2014-171159, PCT/JP2015/072783(韓国・台湾・欧州・米国・中国へ移行予定)

7)http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2016/pr20160126/pr20160126.html

■Fast-speed and high-resolution imaging technique for two-dimensional birefringence distribution
■①Takuma Ogawa ②Naoki Takahashi ③Ryohei Nakajima ④Akira Emoto ⑤Takashi Fukuda

■①Doshisha University, Graduate school of Science and Engineering ②Doshisha University, Faculty of Science and Engineering ③Doshisha University, Graduate school of Science and Engineering ④Doshisha University, Faculty of Science and Engineering, Associate Professor ⑤National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), Electronics and Photonics Research Institute, Senior Researcher

①オガワ タクマ
所属:同志社大学 理工学研究科
②タカハシ ナオキ
所属:同志社大学 理工学部
③ナカジマ リョウヘイ
所属:同志社大学 理工学研究科
④エモト アキラ
所属:同志社大学 理工学部 准教授
⑤フクダ タカシ

所属:国立研究開発法人産業技術総合研究所 電子光技術研究部門 主任研究員

(月刊OPTRONICS 2017年7月号)

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