希土類添加窒化物半導体による赤色発光素子の開発

図5 Eu添加GaNナノコラムの断面走査電子顕微鏡像
図5 Eu添加GaNナノコラムの断面走査電子顕微鏡像

また上記に加えて表面・側面における歪み緩和効果も期待できることからEuイオンを高濃度に添加した場合においても結晶欠陥を抑制し,発光効率が維持されると考えられる。我々はMBE法を用いてシリコン基板上にGaNナノコラム結晶を作製し,その上にEu添加GaN層を形成した12)図5に作製した試料の断面走査電子顕微鏡(SEM)像を示す。Eu添加GaN層においても柱状結晶を維持した構造が形成されていることがわかる。He-Cdレーザ(325 nm)を用いてEu添加GaNナノコラムを励起したところ,Euイオンに起因する明るい赤色発光が室温で観測された。

濃度消光に対する有効性を調べるためにEu濃度の異なる試料を作製し発光特性を調べたところ,Eu濃度を3%程度まで増加させてもEu濃度に対してほぼ線形に発光強度が増大した。このことからナノコラム結晶を用いることによる発光特性改善の可能性が示されつつあるといえる。

5. まとめ

希土類添加窒化物半導体は,希土類イオンの特徴を活かした新たな半導体材料として魅力的である。デバイス応用に向けて,添加された希土類元素を効率よく活用しその特性を十分に引き出すことが求められ,我々は共添加技術やナノ構造を用いたアプローチについて紹介した。今後は,より精密なEu発光中心の制御に向けた技術開発を進めることで結晶中のすべての希土類イオンを活用し,希土類添加半導体による革新的な発光素子の実現を目指していきたい。

同じカテゴリの連載記事

  • 光周波数コムを用いた物体の運動に関する超精密計測と校正法 東北大学 松隈 啓 2024年11月10日
  • こすると発光色が変わる有機結晶の合理的創製 横浜国立大学 伊藤 傑 2024年10月10日
  • 光ウェアラブルセンサによる局所筋血流と酸素消費の非侵襲同時計測 明治大学 小野弓絵 2024年09月10日
  • 関心領域のみをすばやく分子分析するラマン分光技術 大阪大学 熊本康昭 2024年08月12日
  • 熱画像解析による土壌有機物量計測技術の開発 大阪工業大学 加賀田翔 2024年07月10日
  • 組織深部を可視化する腹腔鏡用近赤外分光イメージングデバイスの開発 (国研)産業技術総合研究所 髙松利寛 2024年06月10日
  • 8の字型構造の活用による高効率円偏光発光を示す第3世代有機EL材料の開発 名古屋大学 福井識人 2024年05月07日
  • 高出力半導体テラヘルツ信号源とその応用 東京工業大学 鈴木左文 2024年04月09日