ところで,実際は,ネオジウム原子のエネルギー準位は数本の準位からできており,その結果,基本の1.064μmだけでなく,1.318μmの赤外波長でも発振します。でも,時には可視や紫外の波長の光の方が便利なときもあります。レーザーの欠点は波長を適当に選べないことにあります。
そこで,違う波長の光を使いたいときには,波長を変える何らかの手段を使わなくてはなりません。ある種の結晶を通すことによって,元の波長の1/2,1/3,1/4などの短い波長の光を作ることができます。
このような波長変化を起こさせる結晶を非線形光学結晶と言います。ネオジウムレーザーの出力をこのような結晶を通すことによって,(1064/2=)532 nm,(1064/3=)355 nm,(1064/4=)266 nmなどの可視から紫外の光を作り出すことができます。
小さな結晶をレーザーの前に置くだけでこのような短い波長の光を作ることができますので,思ったより小型の装置で可視から紫外の光を出すレーザー装置ができることになります。緑色のレーザーポインターは,ネオジウムレーザーと波長変換用非線形光学結晶の組み合わせでできています。
ネオジウム以外では,エルビウム(Er),ツリウム(Tm)あるいはホロミウム(Hoを発光原子とするレーザーがあります。これらは2μm付近の赤外の波長域で発振し,目にダメージを与えないことから,アイセーフレーザーと呼ばれています。
この特性を活かし,医療用あるいは地上でのレーザーレーダーやレンジファンダーなどに使われています。エルビウム発光原子は,2.9μmで発振し,細胞による吸収が大きい波長なので,主に医療用に開発が進んでいます。ホロミウム発光原子は2.1μmで発振し,これも医療用に応用するために開発が進んでいます。