食べられる再帰性反射材とその応用

1. はじめに

近年,映像を投影するプロジェクターは高性能化が進み,単に2次元の映像を投影する以上の様々な機能が探索されてきた。そのようなプロジェクターの新たな応用として,特にここ10年ほど注目を集めているものの一つにプロジェクションマッピングがある。プロジェクションマッピングは主として建物などの壁面をスクリーンとして利用し,その幾何学的形状に合わせて様々な映像を投影するものである。

大きな建物に投影すれば多くの観客が同時に楽しめ,また,その建物の形状と同一の形状のテクスチャが動く映像を投影することであたかも建物が動いているような演出を施すこともでき,ある種のショーとして人気を集めている。また,研究の領域でも投影技術の新たな応用について様々な研究がなされてきている。特にVirtual Reality(VR)分野では現実へ情報を付与する技術として古くから注目されており,インターフェースや手術支援などへの応用が提案されてきている。

著者らのグループでは,このようなプロジェクションマッピングの新たな応用として「食」に注目した研究を行ってきている。結婚披露宴におけるウェディングケーキを思い浮かべていただければわかりやすいと思うが,ある種の状況では料理は高度な演出が期待されている。例えばこのような場所で,料理へプロジェクションマッピングを行うことでこれまでにはない新たな演出が可能になることが期待される。

しかし,投影対象の位置や向きに合わせて投影を行うためには,プロジェクターと料理の間の位置関係を正確に把握することが必要になる。一般にこの実現は難しく,これを容易に実現する一つの解決法として「食べられる再帰性反射材」を研究・開発してきた1)。本稿では,食べられるという特性をもつ光学素子とその応用の可能性について紹介する。

2. 投影用マーカーと再帰性反射材

料理は,形状の個体差があり,またその設置位置や向き姿勢を精密に制御することが難しい対象である。そのため,形状が比較的厳密に計測できてプロジェクターとの位置関係も精密に調整可能な建築物と異なり,料理に投影する際はその形状や位置姿勢をカメラなどで計測する必要があることが多い。しかし,画像のみから複雑な形状をもつ料理の位置姿勢を計測することは容易ではない。特に料理に映像を投影することまで考えると,見た目が変化することになりさらに難易度が上がることになる。

このような場合には,画像計測を容易にするマーカーを利用することが多い。マーカーは,画像中で計算機から容易に識別できるような特殊な見え方を持つ物理的な対象であり,これを利用することで,画像処理を容易かつロバストにするものである。よく利用されている代表的なマーカーとしてARマーカー2)などがある。

中でも,再帰性反射材を利用したマーカーはカメラから認識しやすい安定なマーカーとしてよく利用されている。再帰性反射材は,入射した光線をその入射方向に反射することができる光学素子であり,そばに光源を設置した設置カメラから非常に明るい対象として見えるため,背景との区別が容易かつ安定して実現できるものである。

特に映像投影ではプロジェクターが光源として機能するため,カメラをプロジェクターの近くに設置すれば,再帰性反射材の画像からの認識は容易であり,投影用途におけるマーカーとして適している。

しかし,従来の再帰性反射材はガラスやプラスチックといった食べられない素材からできており,これをそのまま料理用のマーカーに導入することは難しい。特に,料理そのものの幾何学的な位置や姿勢を計測するためには何らかの形で料理に直接付与することが必要になるが,食べ物にガラスやプラスチックなどでできたものを置くことは,衛生面から考えても,誤飲・誤嚥の危険性から考えても社会に受け入れられないと思われる。

この問題点の解決法を考えているうちに,いっそのこと食材のみから再帰性反射材を作れないだろうかという発想に至った。食べられるものにしてしまえば料理の上に載せても衛生的な問題はなく,仮に意図せず口にしても健康上の問題はない。そこで,食品のみから再帰性反射材を製作することを目的とした研究を開始した。

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