2025年の幕が開けた。1 月20日にはトランプ氏が再び米国大統領に就任するほか,ドイツやフランス,韓国等で軒並み政権が揺らいでおり,世界の政治,経済,社会情勢は不透明感を増している。
波乱の1年を覚悟する一方で,エネルギーの世界に目を転じると,レーザー核融合の開発動向に今年も世界中が沸騰しそうだ。きっかけは,2022 年にアメリカ・ローレンスリバモア国立研究所の巨大実験施設NIF(National Ignition Facility=国立点火施設)にて『点火』に成功したという発表である。
以下,物理的には曖昧である放射能という言葉をあえて使うことをお許し頂きたい。
福島第一原子力発電所の事故以降,地球温暖化を避けつつ今後のエネルギー需要を満たす発電手段の決め手に欠いている現状がある。ここで核融合発電が注目されるべきであるが,世間的には今一つ盛り上がりに欠けているのは『核』という言葉が放射能を連想させることと実現性への疑義だろう。
それこそ孫の代まで放射能を発する元素をつかう現状の原子力発電とは違い,核融合では水素を使い,最終生成物は風船にも使われるヘリウムである。また,制御しなければ核分裂が暴走しかねない原子力発電とは異なり,核融合は点火を続けなければエネルギー発生を維持できない。巨大地震が起きたときでも制御機構を維持する必要がある原子力発電とは違うので,この点でも福島原発のような事故は起きない。核融合発電と現在の原子力発電は別物で,そのことをもっと政府はアピールすべきである。
実現性の点では,NIFの点火成功前後に世界各国でレーザー核融合のベンチャー企業が相次ぎ誕生し,意欲的なロードマップも提示され,各国政府の支援の下,熾烈な開発競争がスタートしている。重要なのは,この間の開発段階の光技術を含む成果は,すでに多くの産業界に貢献し,各国政府のレーザー核融合への支援は他の産業にも波及していることだ。漸く日本でも内閣府に関連組織が発足し,経済産業省,文部科学省に広がっているようだが,これまでの経緯から磁場方式に力点が置かれ,レーザー核融合への支援は経産省と文科省の狭間にあって足並みが揃っていないと思うのはうがった見方であろうか。
核エネルギーに対するリテラシーの醸成,途中成果物の産業界への展開,産と学の研究機関の連携,スタートアップ企業への助成など,各省庁の密接な連携による活動が求められている。いつのころからか,産学連携という言葉が使われ,そこに「官」が無い事例が多くなっているのではないか。今こそ,産・学・官の連携が問われている。
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このコラムでは光技術・光産業,さらには科学技術政策の諸課題について,広く,深く掘り下げ論考するとともに,ときには弊誌の持論も披露していきます。