農大ら,植物内のナトリウムの動きをイメージング

東京農業大学と日本原子力研究開発機構(原研)と東京農業大学は共同で,植物のヨシは一旦根の中に吸収したナトリウムを,根の先端に向かって常に送り返して排除していることを世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。

これは放射線を利用した画像化技術(植物ポジトロンイメージング技術)を使い,塩分による害を引き起こすナトリウムがイネとヨシの内部を動く様子を画像化し,それぞれ複数個の画像データを統計的に解析した成果。

ヨシは河口付近の淡水と海水が混じる場所(汽水域)でよく見かける植物。同じイネ科でありながら,塩分に弱いイネとは対照的に,高い塩分濃度に耐えられるのはなぜなのか,研究グループはその仕組みを明らかにする研究を行なってきた。

東京農業大学では,塩分濃度の高い土地や水でも農業を可能にするため,ヨシの生理機構の研究を進めてきた。一方,原研は,放射性同位体を利用して,生きた植物体が様々な元素を吸収したり蓄積したりする生理機能を画像により解析する「植物ポジトロンイメージング技術」の開発を行なっている。

今回,両者は共同で,塩分濃度を高めた水耕栽培液で生育させたイネとヨシの根や茎におけるナトリウムの動きを追跡した。得られた画像を解析したところ,イネでは根から吸収したナトリウムが茎を通り葉まで送り続けられるのに対し,ヨシでは茎のつけねで留まり,そこから徐々に根の先端方向に向かって送り返されていることがわかった。

この研究により,ヨシ特有のナトリウム排除機構の一端が明らかになった。研究グループは今後,これに関与する遺伝子を明らかにすることで,高い塩分濃度に耐えられるイネ品種を得る道を拓く。さらに将来的には,無尽蔵の海水でイネを育て食料を安定供給する夢にも繋げたいとしている。

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