三菱マテリアルとエネコートテクノロジーズは,ペロブスカイト太陽電池を構成する電子輸送層の研究開発ににおいて,従来比約1.5倍の発電効率を実現する塗布タイプ成膜用インクを開発した(ニュースリリース)。
近年,ペロブスカイト太陽電池は高効率で低コスト,さらに軽量・柔軟性を持ち,設置が難しかった場所にも対応できることから,再生可能エネルギー分野で注目されている。従来課題とされていた耐久性や安定性も技術の進展により向上しており,次世代の太陽電池として商業化に向けた取り組みが積極的に行なわれている。
ペロブスカイト太陽電池には,積層する材料の違いから「順型構造」と「逆型構造」の2つの構造がある。製造の簡便さや耐久性の理由から「逆型構造」が注目されているが,この構造ではペロブスカイト発電層の上に「電子輸送層」と呼ばれる膜を,ダメージを与えずに形成する必要がある。
これまでは炭素系材料であるフラーレン(C60)を真空プロセスで成膜していたが,商業化に向けて低コストの材料および新たな成膜方法に関する研究開発が進められてる。また,電子輸送層用インクにはペロブスカイト層への浸食防止やインクの分散性(塗布性)を確保し,成膜後の均一性や密着性が求められてる。
今回同社は,NEDOのグリーンイノベーション基金事業を受託したエネコートテクノロジーズより委託を受け,製造コストに優れる塗布型のプロセスを採用した電子輸送層形成材料の開発に取り組み新たな成膜用のインクを開発した。
塗布型のプロセスは非真空状態で製造コストに優れるものの,成膜用インクの溶媒がペロブスカイト発電層にダメージを与えること,ダメージを与えない有機溶媒中ではナノサイズ(10-9mオーダー)の酸化スズ(SnO2)が凝集してペロブスカイト発電層との密着性が得られないことが課題だったという。
今回開発した塗布型の電子輸送層の成膜用インクは,酸化スズナノ粒子の表面を適切な材料で被覆することで有機溶媒中に凝集させることなく分散させることに成功し,ペロブスカイト発電層に対して十分に密着した緻密な塗膜を形成することが可能になったとしてる。これにより,ペロブスカイト発電層から生成される電子を金属電極に効率的に輸送することができる。この新技術の採用により従来比約1.5倍の16.0%という高い発電効率を実現したという。
両社は,成膜インクの塗布プロセスの開発も進め,大面積のペロブスカイト太陽電池への早期の実用化を目指すとしている。