東北大学,静岡大学,大阪大学,神戸大学は,光の一方向透過性を,将来の高速無線通信への利用が進められているテラヘルツ光において観測した(ニュースリリース)。
磁性と誘電性が強く相関した物質群はマルチフェロイックと呼ばれ,磁性と誘電性の間の交差相関である電気磁気効果が露わに現れる。電気磁気効果は,磁気励起にも影響し,一般的な励起「光/電磁波の振動磁場によるスピン波励起(マグノン励起)」だけでなく,「振動電場によるスピン波励起(エレクトロマグノン励起)」も許容する。振動磁場と振動電場の両方に応答する励起も報告されており,そのような場合には,2つの励起の干渉が起き,方向二色性が現れることが分かってきた。
研究では,マグノン・エレクトロマグノン励起に伴う光吸収をパルス強磁場電子スピン共鳴測定から,強磁場・強制強磁性(磁化飽和)状態において観察した。研究対象の鉱物のオケルマナイト(Ca2MgSi2O7)と同じ構造のコバルト(Co)オケルマナイト(Sr2CoSi2O7)では,低温で反強磁性磁気秩序を示すが,20テスラ以上の強磁場を印加することでスピンを一方向に揃えた磁化飽和状態にできる。
このようにして,磁気秩序が消失した磁化飽和状態でのマグノン・エレクトロマグノンの観察により,電気磁気効果に起因する複雑なマグノン・エレクトロマグノン物性の理論解析を単純化し,詳細を完全に解明した。
研究ではマグノン吸収における一方向透過性の観測した。「光入射方向の反転」と幾何学的に同じ効果をもたらす「印加磁場の反転」を用いて,方向二色性を観察した。一方向透過性が発現しているSr2CoSi2O7においてマグノン励起とエレクトロマグノン励起のバランスが取れていることを理論的に解明できたため,他の物質においても物性値から方向二色性の大きさが見積もれることを示せた。
また,自発的マグノン崩壊により,磁気励起のエネルギーを離散的なものから連続的なものに変化させ,吸収エネルギーの広帯域化ができることを示せた。これらは,広い吸収エネルギーを持つ一方向透過性の実現指針を示すもの。
自発的マグノン崩壊を電子スピン共鳴法で観測できたことは,今後の磁気励起研究にあたっての重要な成果となる。さらに,明らかになったSr2CoSi2O7のテラヘルツ光の一方向透過性は,将来の超高速無線通信で使われるテラヘルツ光の光アイソレータや光スイッチへの応用の可能性があるとする。
分子サイズで適用できる点,磁場制御可能である点などが特徴であり,研究グループは,小型化を含め,新しいデバイスへの利用が期待できるとしている。