東京科学大ら,量子センサ向け大径ダイヤ基板を実現

東京科学大学,産業技術総合研究所,信越化学工業らで構成される文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)のグループは,異種基板上のヘテロエピ成長技術により,量子センサに適した(111)結晶方位とコヒーレンス時間を備える“量子品質”の10mm径以上のダイヤモンド結晶基板の作製を実現した(ニュースリリース)。

ダイヤモンド量子センサに用いられる合成ダイヤモンド結晶基板は,高温高圧法(HPHT法)または,高温高圧法で形成されたダイヤモンド結晶上にホモエピタキシャルCVD成長をさせる方法(CVD法)が使われてきた。

しかし,この方法では,元の結晶サイズの制約から数mmサイズの基板までしか実現できず,その大面積化が期待されていた。

シリコン基板やSiC基板,サファイヤ基板などはインチサイズ以上のものが工業的に量産されていることから,これらの基板上に,ダイヤモンド結晶層を成長させるヘテロエピ成長技術の開発も行なわなれ,インチサイズのものも発表されていた。

しかし,これまでヘテロエピ成長では量子センサに適した(111)方位の大面積結晶基板は得られておらず,また,コヒーレンス時間も最大で数μsのオーダーと,量子センサとして適用が実証されているのは高温高圧法かホモエピタキシャル成長法によるダイヤモンド結晶基板に限られていた。

研究では,高品質ヘテロエピCVD成長技術により量子センサに求められる品質のダイヤモンド結晶層を非ダイヤモンド異種基板上に形成することに成功した。その直径は10mm以上と従来比で大面積化を実現した。量子コンピュータや量子センサの動作安定性の目安となるコヒーレンス時間(T2)を測定したところ,合成したダイヤモンド結晶層中のNVセンタのT2は20μs以上と,量子センサ応用が可能な品質を達成した。

量子センサとしては,合成したダイヤモンド結晶基板を2mm角に加工して光ファイバー先端に実装し,CVD成長結晶で重要な結晶方位を調整可能な精密アラインメント機構を備えたセンサホルダを開発した。このセンサを,測定対象(バスバー)の上下にペアで配置して差動動作させることで,磁気シールドなしで20nT/√Hz以上の磁気感度を実現し,研究グループの目標の一つであるEV搭載電池モニタに期待される雑音に強く高精度(10mA)な電流計測を実証した。

これは量子品質のダイヤモンド結晶基板の大面積化と量子センサなどの固体量子応用の可能性を示す成果。研究グループは,量子センサによる生体計測等の医療応用や,EV搭載電池モニタを始めとするエネルギーデバイス応用等の加速が期待されるとしている。

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