横国大ら,チタン単結晶に赤外線照射で高調波を発生

横浜国立大学,神奈川県立産業技術総合研究所,物質・材料研究機構,京都大学,JAXAは,軽量な構造材料として知られる金属チタンの単結晶に赤外線短パルスレーザーを照射することによって,入射波の3倍,5倍のエネルギーを持つ高調波が発生することを見出した(ニュースリリース)。

チタンは軽量で高い強度を持つことから,航空機やエンジンなどの材料として活用されるほか,生体との適合性も良好であることから,医療分野の材料としても利用されている。しかし,チタンは六方晶の結晶構造をとり,異方性を有することから自在な加工が困難である等の問題があった。

このような弱点を解決するために,微量の異元素を添加した合金材料なども研究されており,異方性の消失や固溶強化などの効果が実証されているが,そのメカニズムの解明には電子状態にまで立ち戻って物理的性質を理解することが必要で,特に電子状態の異方性を簡便に計測できる手法の開発が望まれていた。

一方で光科学では,赤外の光パルスを固体物質に照射することで,照射した光の整数倍のエネルギーを持つ高調波が発生する,高次高調波発生が注目されていた。この実験手法はこれまでは主に,半導体や絶縁体を対象に適用されてきており,物質の電子状態や,原子間の結合状態を反映した応答が現れることが明らかとなっていた。

一方で,金属においては自由電子が存在するために入射光が遮蔽され,高調波の発生が抑制されるのではないかと考えられ,あまり研究が進んでいなかった。

研究グループは,このような中で,物質中の電子散乱時間よりも速い周期をもつ赤外線領域のパルス光を,金属材料の一つであるチタン単結晶に照射することによって,チタン単結晶から3次,および5次の高調波を観測することに成功した。

また,励起光の偏光を回転させ高調波の発生強度をマッピングすることによって,これらの高調波の3次元の方位依存性を明らかにした。様々な方向を向いた単結晶ドメインで方位依存性を計測し,それらの結果が単一の非線形感受率テンソルを用いて統一的に記述できることを見出した。これらの研究によって,高次高調波発生が,金属材料においても異方性を計測する手法として活用できることを示した。

さらに,観測された高調波発生機構を解明するために,第一原理計算によるバンド構造の計算結果を用いてバンド内電流とバンド間遷移の寄与を明らかにする研究を行ない,チタンにおいてはこれらの両方が高調波発生に寄与していることを明らかにした。

研究グループは,この手法は材料の力学特性をはじめとした様々な物理特性の異方性を解明する評価手法として期待されるとしている。

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