日本電信電話(NTT)は,将来の超高速無線通信への応用が期待される300GHz帯において,無線通信を行なうためのハードウェアである小型無線フロントエンド(FE)を実現した(ニュースリリース)。
これまでのFEは,その要素部品である増幅器や周波数変換を担うミキサなどを個別のモジュールとして設計・製作し,それらを組み合わせた形態(バラック形態)で実現してきたが,要素部品を自由に組み合わせた柔軟なFE構成が可能である一方,次の2つの課題があった。
①複数モジュールを組み合わせてFEを構築するため,FEのサイズが大きくなる,②モジュール間の接続部が複数存在することでFEの動作帯域が制限され,データレートの向上が困難。
これらの課題解決のため,今回FE構成要素の1つの集積回路(IC)への集積に取り組んだ。集積化により1モジュールでFEが実現できると①が解消され,モジュール間の接続部がなくなることで,②の解決にも繋がる。
今回,サブテラヘルツ帯においても,集積回路内部でミキサで生じる不要波であるLOリークを除去可能な差動構成のFEを検討した。このFE回路を,同社内製の半導体技術であるInP-HEMT高速トランジスタ技術を用いて製作した。
300GHz帯の導波管結合器を用いた独自の実装技術により金属パッケージに実装し,モジュール化を行なった。ワンチップ集積化の結果,15cmから2.8cmへの大幅なFEの小型化が実現された。
また,FEの変換利得の周波数特性から,集積化によるモジュール接続部の排除により,従来のFEと比較して,大幅に動作帯域が改善されていることもわかった。今回製作したFEの性能評価のために,測定系を用いてデータ伝送実験を行なった。
FE動作帯域の拡大により,シンボルレート40Gbaudの広い帯域を用いて16QAM変調信号を高い信号品質で伝送できた。これは,300GHz帯において160Gb/sの伝送に成功したことを意味する。このデータレートは,300GHz帯のFEでは世界最高となるという。
同社は,LO信号の発生部やIFの増幅器などの機能をFEに集積し,さらなる品質の向上に努め,超高速無線通信の実現をめざしていくとしている。