京大ら,弱い励起光で特定の色中心から単一光子発生

京都大学,公立千歳科学技術大学,シドニー工科大学は,発生する光子よりも小さなエネルギーの励起光を用いることで,特定の色中心から選択的に単一光子を発生させることに成功した(ニュースリリース)。

最近,単色性に優れた光子が室温で安定に発生する新たな光子源として,窒素とホウ素の層状物質である六方晶窒化ホウ素(hBN)中の色中心が注目されている。

しかし,発光波長の異なる複数の色中心がほぼ同じ場所に存在する場合,発生する光子よりも大きなエネルギーで励起する従来の方法では,対象の色中心以外からの発光がノイズになることが重大な問題となっていた。

研究グループは,通常とは異なり,色中心から発生する光子のエネルギーよりも,あえてエネルギーが小さい光による励起により,特定の色中心から選択的に単一光子を発生させることに成功した。また,この励起方法によりノイズとなる背景光子を低減できることも実証した。

比較のため,波長532nmと波長637nmの2種類のレーザー光を励起光として用いた。これらのレーザー光を100倍の顕微鏡用対物レンズを用い,幅約200nm,高さ約20nmのhBN粒子に集光した。そして,発生した光子の発光スペクトルを分光器で観測するとともに,2つの単一光子検出器を使用して単一光子性を評価した。

発生光子よりもエネルギーが大きい,波長532nmのレーザー光で励起した場合,560nmから620nmの広い帯域に,複数のピークを持つ幅広い発光が観測された。一方,発生光子よりもエネルギーが小さい,波長637nmのレーザー光で励起すると,短波長側の発光ピークが大きく抑制され,615nmのピークが顕著に観測されるようになった。

また,発生光子の単一光子性を評価したところ,遅延時間が0ns時の同時計数値が,波長532nmで励起した場合の0.53±0.02から,発生光子よりもエネルギーが小さい波長637nmのレーザー光で励起した場合には0.08±0.05まで小さくなった。この同時計数値は,0.5以下で単一光子源の条件を満たし,0に近づくほどノイズの小さな良質の単一光子源であることを示す。

また,温度を絶対温度110度から260度まで変化させた実験により,色中心からの発光強度が,hBN中のフォノンの量に比例することを確認し,励起光との光子のエネルギーとフォノンのエネルギーが組み合わさることで色中心の励起が行なわれていることも実証した。

研究グループは,今回得られた結果は,光量子コンピュータや量子暗号通信,量子センサーの研究の飛躍的な発展に貢献すると期待されるとしている。

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