分子研ら,冷却原子型・量子シミュレータを構築

分子科学研究所と総合研究大学院大学は,絶対零度近くに冷却した3万個のルビジウム原子を0.5μm間隔で光格子に整列させ,10ピコ秒だけ光る特殊なレーザー光で高精度に操作する技術を開発した。この技術を利用し,ナノ秒スケールの超高速量子シミュレーターを構築し,その量子状態を詳細に調べた結果,原子の電子状態と運動状態の間に「量子もつれ」が数ナノ秒以内に形成されることを明らかにした(ニュースリリース)。

この「量子もつれ」は,リュードベリ状態と呼ばれる大きな電子軌道を持つ電子状態により生じる強い反発力が原因であり,これにより,電子が基底状態に閉じ込められた状態とリュードベリ状態の間で「量子重ね合わせ」が形成される。

従来の研究ではリュードベリ・ブロッケード現象によりリュードベリ原子間の距離は5μm程度に制限されていたが,研究では超短パルスレーザー光を用いて励起を超高速で行なうことでこの制限を回避し,0.5μmまで近接した原子を,一斉にリュードベリ状態へ励起することを可能とした。

これにより,0.5μm間隔での、電子が5s軌道(基底状態)に閉じ込められた状態と巨大な29s電子軌道に持ち上げられたリュードベリ状態の「量子重ね合わせ」を生成した。

さらに,基底状態とリュードベリ状態の量子重ね合わせの時間変化を観察し,理論計算と精密な比較を行なった結果,電子状態と運動状態の間に同時に「量子もつれ」が形成されることが確認された。

理論計算との精密な比較を行なった結果,電子状態と運動状態の間の量子もつれが同時に形成されている事が明らかとなった。この相関は光格子中の原子の波動関数の広がりと同じスケール(光格子中の原子の波動関数の広がり:60nm)でのみ観測可能であり,研究グループの独自技術により可能となった。

これにより,粒子間の反発力を取り込んだ新しい量子シミュレーション手法の可能性が示された。この手法により,反発力を及ぼしあう粒子の運動状態を考慮した量子シミュレーションが実現し,超伝導材料や磁性材料などの新たな物性を探求するためのツールとして期待されるという。

また,この研究は冷却原子型量子コンピュータの2量子ビットゲートの精度を改善することから,研究グループは,社会的に有用な量子コンピュータの実現に寄与する成果だとしている。

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