産業技術総合研究所(産総研),北里大学,日本電子,琉球大学,生理学研究所は,生体のサンゴ稚ポリプの石灰化中心の直接観察に成功した(ニュースリリース)。
サンゴの骨格は年輪を刻みながら成長するため,数百年間の環境記録を保持し,気候変動の高解像度での長期復元に有用となる。サンゴの骨格は,化石として産出するため,サンゴ種の判別や進化の歴史をたどり,地質時代の古環境の推定にも役立てられている。
一方で,サンゴの生理学的な研究はまだ発展途上で,骨格形成のメカニズムもいまだよく分かっていない。そこで研究グループは,サンゴを生きたまま顕微鏡により長時間撮影を行ない,サンゴの隔壁の形成メカニズムの一端を明らかにしようと試みた。
サンゴは周囲の海水からミネラルを濃縮し,炭酸カルシウム骨格を形成するが,このメカニズムについてもいまだ分からないことが多くある。特に,石灰化中心と呼ばれる部位は,生物作用が大きく,骨格の形態形成を制御する重要な部位であることは古くから知られていた。
1990年代に入ると,分析技術の発展により,生物作用の大きい石灰化中心は,その他の骨格部位に比べてイオン組成が異なることは明らかになっていた。最近では,サンゴ骨格中の微量元素組成を高解像に分析する手法が発展しているが,実際に生体のサンゴを用いて,石灰化中心の骨格形成過程を可視化した研究例はなかった。
研究グループは,コユビミドリイシのサンゴ稚ポリプの骨格形成過程の様子を,まず,偏光顕微鏡を用いて,底部から数日間撮影した。ポリプ着底部で直径数μmの微粒子の出現を起点とした,石灰化中心の形成過程を撮影することに成功した。
画像解析により,石灰化中心が形成される際,造骨細胞の周囲や間隙で,まず急速降着前線堆積物と呼ばれる小さな微粒子が形成され,その後,繊維状の炭酸カルシウム結晶が成長することが分かった。そして,この2つの過程には,別々のメカニズムが関与していることも報告した。
さらに,ポリプの生体内で隔壁を蛍光染色し,2光子顕微鏡を用いることで,微粒子の動態を画像解析することにも成功した。画像解析から,隔壁の石灰化中心も,微粒子で構成されており,微粒子が付着しながら隔壁が成長する様子が明らかになった。
研究グループは,実際のサンゴの生体を対象にした,非破壊的なイメージング技術の発展により,サンゴの骨格形成メカニズムが明らかになることが期待されるとしている。