東工大ら,青色有機ELの電子移動が可能なことを実証

東京工業大学と静岡大学は,超低電圧で発光する青色有機ELにおいて,適切な材料の組み合わせを用いることで,エネルギー損失のない高効率な電子移動が可能となることを実証した(ニュースリリース)。

有機ELは,テレビやスマートフォンディスプレー等で実用化されている一方で,光の三原色の中で最もエネルギーが高い青色の発光については,駆動電圧が高く消費電力が大きいという課題を抱えている。

研究グループが開発したアップコンバージョン有機EL(UC-OLED)では,内部の電子移動反応の詳細はこれまで明らかにされておらず,高効率化のための材料選択指針が求められていた。

研究グループは,UC-OLEDの系において45通りの材料の組み合わせを用いて,CT状態からドナー分子のT1へのCT→T1電子移動反応を系統的に解析した。UC-OLEDでは,CT状態からT1に電子移動した後に,TTAによってS1を形成させることで,発光として観測することができるため,素子の発光効率から間接的にCT→T1電子移動の効率を議論することが可能である。

UC-OLEDのEL発光スペクトルでは,TTAを経由した青色発光(TTA-UC発光)と,中間体であるCT状態の輻射的な失活であるCT発光が観測される。そこで,材料の各組み合わせのCT発光ピークよりCT状態エネルギー(ECT)を,青色発光より発光効率を算出した。

そして,45種類のデバイスについて,発光効率と電子移動の駆動力(ECT−ET1)の関係性をプロットしたところ,電子移動の駆動力が小さい,すなわちドナーの三重項エネルギーとCT状態エネルギーが近い領域で発光効率が高くなる傾向が見られた。

次に,界面相互作用が電子移動に与える影響を考慮するために,光電流応答スペクトル(IPCE)よりCT吸収の観測を行ない,各デバイスの分子間CT相互作用の評価を行なった。ECT−ET1が同程度である場合には,分子間CT相互作用の強い組み合わせほど,効率的に電子移動できることが示唆された。

さらに,半古典的マーカス理論に基づいて,プロットの形よりフィッティングを行なったところ,0.1eV以下の再配向エネルギーで実験結果をよく再現できることが分かった。

最後に,探索した材料系の中で最も効率の良かった組み合わせについて,デバイス構造の最適化を行なったところ,1.5V乾電池1本で青色発光が得られたことに加え,従来までの3.3%よりも高い4.0%の最大外部量子効率(EQE)を達成した。

研究グループは,この研究成果は,エネルギー利用効率の高い社会の実現に寄与することが期待されるとしている。

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