東京大学の研究グループは,約10-40THzの周波数帯において二色逆回り円偏光と呼ばれるパルスを生成,さらにその光が持つさまざまなパラメーターをソフトウェア上で制御できる光源を開発した(ニュースリリース)。
低エネルギー領域で興味深い性質が現れる量子物質を強い光電場で制御するためには,周波数が10-70THz程度のマルチテラヘルツ帯と呼ばれる帯域の光が重要になると考えられる。
この帯域の電場は固体中の電子の典型的な散乱レートよりも速いためコヒーレントに電子を駆動することが可能であり,一方で可視光よりも十分周波数が低いため余計な光吸収と損傷を抑えて物質を制御することができる。
しかしこの帯域は,強い光の発生と検出技術自体が発展途上であることに加えて,多くの物質が格子振動による吸収を持つためにフィルターや偏光素子が不足している。そのため周波数を自在に変換したり余計な成分をフィルターで除去したり,市販の素子で広帯域に偏光を操るといったことが難しい。また二色の光が別々の光路を通るとその光路差の揺らぎによって電場軌跡が回転してしまうため実験が難しくなる。
研究グループは,近赤外域の光パルスを波形整形してから非線形光学結晶に照射することで,所望する二色逆回り円偏光マルチテラヘルツパルスへと直接変換する手法を考案した。
フェムト秒レーザーから出力された近赤外パルスを,マルチプレート法と呼ばれる最近開発された手法で広帯域化し,4f光学系と空間光変調器を使ってどの周波数成分がどのような偏光状態を持つかをパソコン上から細かく設定する。
そうして波形整形された近赤外パルスを,3回回転対称性を持った非線形光学結晶に照射して差周波発生を行なうことで,周波数の低い円偏光を自在に発生させることができる。これらを巧みに組み合わせることで,単一の近赤外パルスから逆回り円偏光状態を持った二色のマルチテラヘルツパルスを直接発生させることに成功した。
この手法は,13-39THzという2オクターブ級の広い周波数帯で,二つの光電場成分の相対振幅や相対位相,円偏光の向きといったパラメーターをパソコン上から自在に設定できる。またフィードバック制御により光路を安定化しなくても光電場軌跡の揺らぎが1時間で0.8°以内に抑えられている。
研究グループは,現時点では電場の大きさが100kV/cm程度だが,更なる高強度化も可能であり,特異な光電場による物性制御手法として今後発展するとしている。