大阪公立大学の研究グループは,これまでに開発したMOF結晶を規則正しく並べ,基板上に薄膜を形成する技術を応用し,MOF結晶の成長方向を制御しながら基板上に薄膜を形成,結晶を隙間なく綺麗に並べることで,これまでにない高品質な薄膜の作製に成功した(ニュースリリース)。
1gの金属有機構造体(MOF)の結晶は,サッカーグラウンドの面積に相当する表面積があり,水素の貯蔵や二酸化炭素の吸収する新しい材料として,環境・医療などさまざまな分野において産業利用が期待されている。一般的にMOFで大きな結晶を合成することは難しいため,結晶膜として利用するには,小さなMOF結晶を規則正しく並べることが重要となっている。
透明かつ高品質な結晶膜を得るためには,結晶の向きを揃えるだけでなく,結晶と結晶の隙間を無くし,膜表面での光の散乱を抑える必要がある。しかし,MOF結晶の配向を制御することは難しく,光学的に高品質なMOF膜は実現されていなかった。
研究グループは,金属水酸化物の表面水酸基の規則性に着目し,MOFをエピタキシャル成長させることで,MOF結晶が大面積で配向した薄膜を世界に先駆けて実現した。この成果により,結晶の配向に関する課題は解決できたが,結晶同士が連結しておらず,結晶と結晶の間に隙間が生じているため,膜表面での光の散乱により半透明の膜しか得られなかった。
今回の研究では,MOFのエピタキシャル成長技術をベースに,MOF結晶が形成・成長する過程において結晶の形状を制御することで,MOF結晶が配向しているだけでなく,透明性が高い高品質のMOF膜を作製する技術を初めて開発した。
まず,MOF結晶の形状制御の役割を果たす添加剤を合成溶液に入れ,合成を行なった。MOF結晶の中では,金属イオンと有機配位子の結合部の向きが一様に決まっており,銅イオンとカルボン酸が結合することで縦方向に結晶が優先的に成長している。
研究グループは,モジュレータを反応溶液に添加し,銅イオンとMOFを構成する有機配位子中のカルボン酸の結合形成速度を相対的に遅らせることで,特定方向の優先成長を抑制した。その結果,MOFの結晶が均一に成長し,結晶と結晶の間の隙間が結晶成長とともに消失することで,膜表面での光の散乱を大幅に抑制した高品質MOF膜を実現に成功した。
研究グループは,この研究で作製した薄膜は無数の分子サイズの穴を持ち,光をよく通すため,分子吸着時の光学特性の変化を利用した光学センサーや光学素子,透明ガス吸着シートとしての活用も期待されるとしている。