埼玉大学と東京工業大学は,単分子エレクトロニクスに革新をもたらすと期待される新しい電気伝導パスを発見した(ニュースリリース)。
一分子そのものを素子として用いる単分子エレクトロニクスは,分子の多様性が無限であることから,究極に多様な機能を生み出すことができる。ここでは,どのような分子をどのような機能に結びつけるかが研究の鍵となる。研究では,注目する機能として,分子内に存在する電子が担う電気伝導を選定した。
これまで単一分子の電気伝導度の研究は,主に炭素-炭素結合軸に対して垂直方向に存在するパイ軌道に電子が非局在化している分子系(パイ非局在電子系)が対象であり,高い電気伝導度を示す分子も知られていた。
このような背景の中,この分野の研究を推進するには二通りの考え方がある。一つはひたすらに電気伝導度の高いパイ非局在電子系化合物を探索することであり,もう一つはパイ非局在電子系における電気伝導とは異なるメカニズムで電気を伝導する分子系の開拓。
研究では孤立電子対をもつ重原子が空間的に近づくと,結合を有していない重原子どうしに相互作用が生じ,シグマ非局在電子系を形成することに着目した。この軌道のエネルギーが十分に高いと,この分子が金属電極間に挟み込まれた時にシグマ非局在軌道を使って電気伝導が起こる,との仮説を立てた。
そこで今回,ベンゼンの周縁部に六つのセレン原子官能基を有する分子を合成し,この単分子電気伝導度をブレイクジャンクション法により測定した。その結果,シグマ非局在電子系をもつ分子が高い電気伝導性を示すことを世界で初めて明らかにし,単分子エレクトロニクスにシグマ非局在電子系が有用であることを世界で初めて示すことができた。
研究グループは今後,シグマ非局在電子系の構成単位数を増やしていく研究(高分子への展開)やシグマ非局在電子系とパイ非局在電子系を組みあわせる研究が始まり,多様な電子系を用いたフレキシブルな電子デバイスの設計が可能になるとしている。