東京工業大学,東京大学,物質・材料研究機構,量子科学技術研究開発機構ら,文部科学省光・量子飛躍フラッグシッププロジェクト(Q-LEAP)の研究グループは,ダイヤモンド中の窒素—空孔中心(NVセンタ)を利用したダイヤモンド量子センサで,低周波磁場に対して9.4pT/√Hzの磁場感度を実現した(ニュースリリース)。
ダイヤモンド量子センサによる脳神経活動の磁気的な計測は,その位置や時間をより高精度に推定できるため,磁気シールドや冷却装置の必要ない脳磁計測を実現するための高感度な磁力計として期待されている。
しかし,脳磁は強くても頭皮表面付近で数ピコテスラ(pT)極めて微弱なうえ,その発生源である神経からの距離の2乗に反比例して強さが減衰する。そのためセンサには,非常に高い磁場感度のほかにも,頭に近づけられる設計や,長時間にわたる安定した動作が要求される。
また,脳磁の周波数は,周辺環境や機器によるノイズが大きく計測が難しい100Hz以下の低周波領域だが,これらの厳しい条件を満たすダイヤモンド量子センサは報告されていなかった。
研究では,測定対象に容易に近づけられる設計のダイヤモンド量子センサを開発した。測定対象への近接性と感度を両立するため,NVセンタからの蛍光を効率よく集める工夫を施しつつ,センサを構成する部品を一体化した。
また,この新たに開発したダイヤモンド量子センサには,磁場感度を決める大きな要因である,スピン位相緩和時間の長い高品質なダイヤモンドを高温高圧法で合成して使用した。さらにセンサのノイズ要因を細かく分析することで,量子力学的に決まるノイズ限界程度までノイズを低減できた。
その結果,5–100Hzの周波数領域で9.4pT/√Hzという高い磁場感度を実現した。この感度は,磁束集中器を用いないダイヤモンド量子センサ単体の感度としては,低周波領域で最も高い値だという。
このダイヤモンド量子センサは安定性にも優れており,少なくとも200分間は上記の高感度で動作することを実証した。およそ40分間信号を平均することによって検出できる最小の磁場は,1pTよりも小さな0.3pTだった。また,現実的な脳磁計測を想定した場合には,数ピコテスラの磁場を測ることが可能であり,脳磁の検出が期待できるという。
研究グループは今後,このセンサを動物に対して用いることでダイヤモンド量子センサによる脳磁計測を実証する。将来は磁気シールドレスな脳磁計測の実現につなげていくとしている。