九州大学,米トロント大学,米イリノイ大学,加バンクーバー大学,英グラスゴー大学は,“自動運転ラボ”を使用して,2ヶ月間の短期間で1,000個以上の分子を合成・評価し,21個の新しい高性能有機固体レーザー(Organic Solid-State Laser:OSL)材料を発見した(ニュースリリース)。
現在,有機光機能材料の開発には複雑なワークフローが必要だが,多くの場合,必要な専門知識や研究インフラは複数の場所や時間帯に分散していることが多く,高度な探索パイプラインへの統合を妨げている。
この課題は AI による自動実験とデータ主導の意思決定において特に顕著であり,グローバルに分散した拠点の実験研究のインフラを相乗的に統合するには,グローバルにアクセス可能な中央クラウドハブが必要となる。
研究では,有機薄膜固体レーザーにおける最高レベルの光増幅機能を有する低分子をAIガイド下において発見することに成功した。分子探索における一般的な合成ボトルネックを克服するために,ビルディング・ブロック・ベースの戦略を用いた。
反復的な鈴木・宮浦カップリングを利用して,モジュラー前駆体から有機レーザー分子を合成するための2段階ワンポット・プロトコルを開発した。高い光増幅材料候補群を形成するためのビルディングブロックの組み立ては並列化され,異なるロボット合成プラットフォーム上で自動化された。
そして,自動テスト・ワークフローによって,定常状態および時間分解分光法による溶液相の光学特性評価で信頼性の高い分光結果を可能にするまで精製を繰り返すことで材料の高純度化を進め,安定した光増幅(レーザー)特性を確保した。
実験結果は,クラウドハブの機械学習ベースに供給され,量子化学シミュレーションから得られた物理的知識と統合され,次の材料設計にループされることで,材料の絞り込みを進めた。このマルチサイト・ディスカバリー・エンジンの開発・運用を通じて,グローバルに分散した5つのラボが分子設計,合成,物性評価までをシームレスに連携することで,光増幅断面積が改善された21個の新規有機レーザー分子の創出に至った。
この研究は,分子設計・合成,コンピュータサイエンス,光物性・デバイス物性等の異なる専門分野を有する多数のチームが,グローバルに時空を超えて協力することで,AI時代の分散型研究の雛形を示すことができた。
今後,このフレームワークを拡張し,分散した研究リソースを柔軟に統合することで,より迅速に様々なデバイスにおける高性能な有機機能材料の探索を進めていくとしている。