ワープスペースは,宇宙航空研究開発機構(JAXA)から受託した,月地球間の長距離光通信に必要となる,高感度捕捉追尾光センサーの開発業務を完了した(ニュースリリース)。
光通信では,まず接続を行なう前段として双方の衛星を光学スキャンによって捕捉する必要がある。しかし,40万km隔たった月と地球間では光も大きく減衰するため,微弱な光信号を検知できる超高感度センサーが必要となる。
このセンサー(四分割InGaAsアバランシェフォトダイオード)は既に試作機の開発を終えており,従来の光検出器と同等以上の検出性能を確認し,また,冷却における大幅な暗電流低下が示唆される結果が得られたという。
更に,実際のミッションにおける使用を想定した改善を目的に,この開発ではノイズのさらなる低減に焦点を当てた。センサーは光子を感知した際に電気信号を流すことではじめて光を検知する。
しかし,微弱な光信号を検出の対象としているこのセンサーでは,他の要因で雑音となる信号(ノイズ)が発生すると,検出すべき信号との区別がつきづらく,センサーの精度が落ちてしまう。
このノイズは,熱がある状態において素子に電圧を加えたときに,熱的原因,絶縁不良,結晶欠陥などによって光を当てなくても流れる電気の流れ(暗電流)によって引き起こされる。
これに対処するため,二つのアプローチからノイズの低減を図った。ひとつは受光素子を-20°Cまで冷却すること,もうひとつは受光面のサイズを縮小すること。これらの措置により,従来のセンサーと比べて暗電流を約97%低減することに成功し,月地球間光通信の捕捉追尾に必要とされる受信電力を約90%低減できることを確認した。
さらに,月ー地球間光通信の捕捉追尾に要求される,1万分の1度台の精度を,このセンサーで達成できることをシミュレーションにより確認した。
この感度の向上は,宇宙における信頼性の高い光通信の確立にとって極めて重要となっている。特に,月探査プロジェクトにおいては40万kmという超長距離の中で確実な通信を成立させる必要がある。
これは例えば,東京駅から富士山頂上(直線距離約100km)のバスケットボールにレーザーポインタを当て続ける精度と同等となる。今回開発に成功したセンサーはその信号の捕捉と追尾にあたって,非常に重要な役割を果たすとする。この件は2023年11月に受託し,開発目標を達成した。