茨城大学,高エネルギー加速器研究機構(KEK),総合科学研究機構,J-PARCセンター,東北大学は,Remeika相化合物のうちネオジム・ロジウム・錫(スズ)を含むNd3Rh4Sn13が示す結晶構造相転移と磁気秩序の詳細を明らかにし,空間反転と時間反転の対称性が逐次的・自発的に破れる相転移を発見した(ニュースリリース)。
近年,反転させると元とは一致しない結晶構造をとる物質において,その幾何学的特徴(トポロジー)によって決定づけられる新奇な電子状態に注目が集まっている。
研究グループは,自発的に反転対称性を破る磁性体に注目した。これまでの研究により,希土類元素(セリウムやネオジム)・遷移金属元素(コバルト,ロジウム,イリジウム)・錫を含むRemeika相化合物のいくつかが,高温から低温の結晶構造へ相転移する際に反転対称性を失うことを明らかにしてきたため,この研究ではネオジムを含むNd3Rh4Sn13に着目した。
まずKEKフォトンファクトリーでのX線回折によって,65℃以下の低温で新たなX線回折ピークが観測されたことから,反転対称性のないカイラルな結晶構造に変化することがわかった。ネオジムイオンが直線的に並んだ2種類の一次元状の鎖が,直行する三方向に伸び,かつそれらが渦を巻くように配置している。渦を巻く中心は三角形になっており,渦の巻き方が異なる左右対掌なカイラル構造となる。
次に磁化を測定し,さらに中性子散乱を実施し,1.65 K(約マイナス271℃)の極低温でネオジムイオンの磁気モーメントの秩序状態を観測した。結果,カイラル対称結晶構造におけるネオジム鎖上で磁気モーメントが交替的に配列し,渦を巻く鎖は三角格子で連結しており,空間反転と時間反転の両者が逐次的・自発的に破れることがわかった。この結果においてネオジムを含むRemeika相化合物の真の対称性が明らかとなった。
この研究で解明されたカイラル結晶構造と反強磁気秩序構造の自発的発現は,物質中を伝導するワイル電子がネオジムイオン間にはたらく磁気相互作用を媒介していることを想起させる。さらにカイラル結晶構造の特徴を反映して,一次元反強磁気鎖が三角格子を介して連結している幾何学的な特徴から,磁気フラストレーションも重畳していると考えられる。すなわち,まだ未解明なカイラル対称物質中のトポロジカル伝導電子による磁気状態を示す典型物質として,今後の研究にもつながるとしている。