東北大学の研究グループは,イオン交換が生じる前駆体とイオン源の組合せを,第一原理計算によって高速で見極める技術を確立した(ニュースリリース)。
太陽電池や燃料電池などをさらに高効率化していくためには,それに適した新しい物質の探索が必要不可欠となる。固体イオン交換法は,既存の物質が含むイオンを,別の固体物質が含む異なるイオンに置き換えることで新しい化合物を作り出す手法。
従来の原料から合成する高温反応法が800℃以上を必要とするのに対し,固体イオン交換法では150~400℃と比較的低温で反応が進むため,新物質を探索するためのツールとして長らく期待されてきた。しかしイオン交換が生じる物質の組合せ(前駆体とイオン源の組合せ)を予測する手段はこれまでなく,新物質を合成するためには,様々な組合せを試行錯誤する実験が必要だった。
今回研究グループは,「イオン交換が生じるかどうかを第一原理計算により予測できるか?」を検証した。前駆体として三元系ウルツ鉱型酸化物(β-MIGaO2,MI = Na, Li, Cu, Ag)を,イオン源としてハロゲン化物・硝酸塩(MIX, X = Cl, Br, I, NO3)を選び,これらの42 通りの組合せのイオン交換について,第一原理計算をした。
計算結果は「イオン交換が生じる」「イオン交換が生じない」「部分的なイオン交換が生じる(固溶体が形成される)」の3つのカテゴリに分けられた。さらに,実際の実験を通してこれらの計算結果を検証し,42通りの組合せすべてで,計算による予測と実験結果が一致することを確認した。
この手法によって,実験で試行錯誤することなくイオン交換が生じるかどうかを予測すること,および,事前に適した物質の組合せを選定できることが示された。
この手法によって,実験をせずとも,イオン交換に適した物質の組合せを高速で見極めることができることから,研究グループは,太陽電池や燃料電池の高効率化や環境適応性の向上に貢献する全く新しい準安定相の発掘が加速することが期待されるとしている。