北海道大学と理化学研究所は,短波赤外蛍光イメージングの医療応用に向けた蛍光色素の開発に成功した(ニュースリリース)。
短波赤外(900-1400nm)蛍光は,生体内において組織からの吸収や散乱が少なく,ヒト乳がんの非侵襲イメージング診断への応用が期待されているが,医療応用が可能な安全性の高い短波赤外蛍光色素の開発には成功していなかった。
現在ある数多くの短波赤外蛍光色素の中でも,インドシアニングリーン(ICG)は,米国食品医薬品局(FDA)により唯一臨床使用が認められている有機色素。しかし,ICGを短波赤外蛍光色素として使用する場合,その励起波長は800nm未満に制限される。
また,蛍光波長が長くなると光散乱も抑えられるため,生体深部での短波赤外蛍光イメージングでは,ICGより長い励起波長と発光波長を持つ有機色素が望まれている。
シアニン系色素では,そのポリメチン鎖の二重結合の長さを一つ増やすと,その吸収・発光極大の波長が約100nm長くなることが知られていたが,これまで,この二重結合を増やした ICG 誘導体の化学合成に成功した報告はなかった。
研究グループは,特殊な化学合成法を駆使して,ポリメチン鎖を延長することにより,それぞれ922nm 及び1010nmの波長で発光するπ共役拡張型のICG類縁体,ICG-C9及びICG-C11の合成に成功した。
さらに,短波赤外領域で蛍光分子イメージングを行なうため,ICG,ICG-C9及びICG-C11をベースとした短波赤外蛍光ラベル化剤の開発も行なった。これらのラベル化剤により,抗体などの生体分子への短波赤外色素の修飾が容易となり,乳がん細胞の生きたままのイメージングが可能となった。
ICG,ICG-C9,ICG-C11色素を修飾した抗体を用いて,生きたマウスで表面受容体と腫瘍血管系を可視化することにより,乳がん腫瘍のマルチカラー短波赤外蛍光分子イメージングが可能であることを示した。また,ICG及びICG-C11を修飾した抗がん剤により,乳がん腫瘍の消失を二色の短波赤外蛍光で観測できることを示した。
更に,乳がん腫瘍の長期間(38日間)イメージングにも成功。乳がん腫瘍を,ICG-C9を結合させた抗がん剤でラベル化し,短波赤外蛍光イメージングを行なった結果,抗がんを作用させた乳がん腫瘍では,その腫瘍サイズが38日間で1/12に縮小することを非侵襲的に確認した。
研究グループは,短波赤外蛍光イメージングのがんの光診断などでの医療応用を加速する成果だとしている。