兵庫県立大学は,発光性有機薄膜と金属薄膜のハイブリッド構造から成る光共振器において,発光の増幅の起こりやすさが金属薄膜を用いる場合と用いない場合とで同程度であることを発見し,金属薄膜による消光に起因する発光増幅の阻害効果を完全に抑制することに成功した(ニュースリリース)。
有機光・電子デバイスでは,有機薄膜の他に,デバイスを外部回路と電気的に接続するための金属薄膜が必要となるが,金属薄膜近傍にある励起子のエネルギーは容易に失活し,熱となって励起子から逃げ去ってしまう。
この現象は,金属薄膜のように光の波長よりも大きなサイズの金属を伝搬する表面プラズモン(SPP) によって引き起こされる。このようなエネルギー失活を完全に抑制することは困難であるため,既往の研究では,デバイス構造や作製プロセスの最適化などにより,できるだけ失活を抑制するための工夫が講じられてきた。
金属材料をナノスケールにまで小さくすると,SPPがナノ構造に閉じ込められ,近傍にある励起子と共鳴して発光の増強が起こるようになる。これまで研究グループは,光共振器を利用することで励起子の近傍にSPPを閉じ込め,金属薄膜を用いた場合においても発光増強を発現させられる方法を探索してきた。
今回の研究に用いた光共振器は,回転対称性を有する構造体の周囲を光が周回するウィスパリングギャラリーモード(WGM)を利用したものとなっている。共振器は,20mの直径を有するシリカマイクロビーズの上に,10nmの金属薄膜層,100nmのCBP薄膜から成るスペーサー層,250nmのterfluorene薄膜から成る発光層を蒸着成膜することにより作製した。
この共振器に紫外域のパルス励起光を照射すると,発光層で生成した青色発光と金属層で生成したSPPが結合し,ビーズの赤道付近を周回する。励起光強度を徐々に強めながら発光スペクトルを取得すると,ある励起光強度からスペクトルの先鋭化が起こり始める。
このときの励起光強度の低さが発光増幅の起こりやすさの指標となる。この指標を,金属層を含まない共振器と,10nmの厚さで成膜したアルミニウムまたは銀の薄膜を金属層に用いた共振器について調べたところ,発光増幅の起こりやすさがすべて同等となることを見出した。
解析の結果,この失活抑制効果は,WGMによりSPPが共振器に閉じ込められることに加え,10nmもの薄い金属薄膜を用いたことでSPPが有機薄膜中に染み出し,金属薄膜中で起こるエネルギー吸収を低減できたことに起因することを突き止めた。
研究グループは,今後,発光増強効果が消光効果を上回る共振器の開発が期待される成果だとしている。