京大ら,ダイヤの励起子のスピン軌道相互作用を解明

京都大学,仏パリ・サクレ大学,仏ソルボンヌ・パリ・ノール大学は,ダイヤモンドの光吸収スペクトルをこれまでにない高い精度で取得し,アクセプタに束縛された励起子の微細構造におけるスピン軌道相互作用の効果を明らかにした(ニュースリリース)。

電子は自転のようなスピンのほかに,公転のような軌道の自由度を持つ。半導体に光を照射することで生成される,電子と正孔の対である励起子は,これらの自由度が複雑に絡み合った粒子系の相互作用を調べる格好の舞台。

しかし,実験的な難しさにより,ダイヤモンドの励起子に対するスピン軌道相互作用の効果については 20年以上にわたって一致した理解が得られず,長く謎のままだった。

研究グループは,ダイヤモンド中のホウ素アクセプタ束縛励起子に対して,吸収分光を行なった。これは,適度な量のホウ素を注入した青色ダイヤモンドが近年人工的に合成されたことにより可能となった。

吸収測定では発光測定で問題となるトレードオフが存在せず,低温でもエネルギーが高い状態を観測できる。重水素ランプを用いて得られた,極低温での深紫外吸収スペクトルは,これまでは4本のピークのみが観測されていたが,この研究では9本のピークを観測した。このことは,この研究においてこれまで達成されていなかった高い分解能で束縛励起子の微細構造を観測できたことを示す。

束縛励起子の微細構造の起源を調べるために,それぞれのピークの面積から吸収強度を抽出した。この研究では,微細分裂ピークの吸収強度を再現するように,これまで用いられていた束縛励起子の理論モデルをスピン軌道相互作用を含む形に拡張した。

この拡張モデルは実験で得られた吸収強度をよく再現することが見て取れた。このことは,束縛励起子が電子と正孔を対として含むのではなく,他の半導体と同様にアクセプタ中心に束縛された電子1体と正孔2体からなることを示した。

吸収強度に加え,ピークエネルギーも合わせて解析することで,スピン軌道相互作用の大きさが14.3±0.1meVであることを決定しただけでなく,ダイヤモンドでは未知であった結晶場分裂および正孔-正孔スピン交換相互作用の大きさを求めることができた。

この研究の成果は,ダイヤモンド中のホウ素アクセプタ束縛励起子の微細構造に関する論争に終止符を打つとともに,半導体中のアクセプタ束縛励起子におけるスピン軌道相互作用の効果を世界で初めて明らかにした。

研究グループは,この研究で提案したモデルはスピン軌道相互作用の効果を取り入れたものであり,他の半導体も含めた束縛励起子の微細構造を統一的に理解する上で有用だとしている。

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