北里大学,茨城大学,青山学院大学は,重量比わずか3%添加するだけで,有機ELデバイス等に用いられる汎用発光性ポリマー(F8BT)を円偏光発光性の色素材料に変える,キラル誘起添加剤を開発した(ニュースリリース)。
円偏光発光色素の設計には,キラル分子を用いることが不可欠だが,それには光学分割や不斉合成といった難易度の高いプロセスが避けられず,安価な大量合成が難しいことが予想される。
今回の研究では,これを解決するために,キラリティーを持たない発光性ポリマーに,キラリティーを誘起する添加剤を少量加える方法で,汎用的な発光性ポリマーを円偏光発光色素に変える手法の開発を進めていた。
発光性ポリマー+キラル誘起添加剤の組み合わせで円偏光発光を生み出す研究はいくつか発表されているが,ポリマーにキラリティーが誘起されるメカニズムは分かっていない。また,ドープ率や,発生する左右の円偏光度に課題が残されており,優れた材料を開発する方法論を模索する段階にある。
研究グループは,キラル誘起添加剤として [2.2]パラシクロファンに連結したキラルな放射状カルバゾール分子を新しく開発した。複数の置換基が導入された[2.2]パラシクロファンはラセミ化しない安定なキラル骨格で,薄膜を形成する際に必要なアニーリング(熱処理)に耐えることができるが,効果的な化学修飾方法が確立されていなかった。
今回の研究では,ボロキシンと呼ばれる化学種の誘導体をカップリング反応に用いることで,[2.2]パラシクロファンをベースとした新しい材料への効率的なアプローチが可能になることを見出した。これを利用して新しい添加剤の開発に成功した。
市販の発光性ポリマー(F8BT)に,開発した添加剤を重量比3%加え,スピンコートによって薄膜を作製し熱処理したところ,ポリマー由来の強い円偏光発光を示すことがわかった。この時,円偏光発光を評価する指標である非対称性因子gCPL値は0.01であり,一般的なキラル有機化合物のgCPLよりも10〜50倍高い値を示した。
キラルな添加剤そのもののgCPL値は0.0005以下であること,F8BTはキラリティーを持たない構造で円偏光発光を示さないことから,添加剤によってF8BTのキラリティーが誘起されたことがわかった。
今回開発した化合物は少量でもキラル誘起添加剤として機能することが特長であり,従来の片方のキラリティーを持つ分子を利用した円偏光発光よりも低コストでの製造が可能となる。研究グループは,この成果により,円偏光発光デバイスの開発が加速されるとしている。