青山学院大学の研究グループは,超蛍光と呼ばれる量子の世界で起こる同期現象を用いて,レーザー光の瞬間強度を7桁以上増強することに成功した(ニュースリリース)。
同期現象の超蛍光は量子力学で良く知られている。原子に代表される量子性が顕著な物質がエネルギーの高い状態に励起されると,その内部エネルギーが光へと変換され,蛍光として自由空間に放出される。
この現象は自然放出過程と呼ばれ,物質と真空場との相互作用に起因する。多数の量子物質が同時に励起された場合,各量子物質は共通の真空場を介して相互作用する。この結果,各々の量子物質は発光のタイミング,すなわち位相をそろえ,一般的な蛍光とは異なる高いピーク強度を持った光パルス「超蛍光」が放出される。
一方,超蛍光が持つ増幅(アンプ)特性を光デバイス開発へと適用するにあたって,超蛍光は真空場の量子ノイズを増幅する過程であるために,そのノイズを反映して,超蛍光の絶対位相が光パルス毎に揺らいでしまうことが一つ大きな問題点であった。
超蛍光の絶対的な位相は不定だが,実際のところは原子集団から最初に放出された光子の位相にそろうと考えられている。超蛍光では,初めに放出された光子が呼び水となって同じ位相の光子が次々と放出される。このことから,光子雪崩とも呼ばれている。
この点に着目した研究グループは,超蛍光の波長と共鳴した微弱なレーザー光を原子集団に照射した条件下で超蛍光を発生させる実験を実施した。その上で,超蛍光とレーザー光との干渉測定を実施することによって,両者の位相関係を実験的に調べたところ,レーザー光の位相が超蛍光の位相へと転写されていることが判明した。
ここでレーザー光と超蛍光の位相が同期していることを示す量子ビートが明確に観測された。照射されているレーザー光は極めて微弱であり,超蛍光の光子雪崩を引き起こす最初の光子を原子集団に注入したに過ぎないという点がこの結果で重要になっている。
超蛍光として放出される光エネルギーは原子集団の内部エネルギーから提供されることに何ら変わりはない。この結果を言い換えれば,微弱なレーザー光の光強度が超蛍光によってコヒーレントに増幅されたと捉えることもできる。そして,実験結果から実に瞬間強度にして7桁も増幅していることが判明した。
実験結果から超蛍光に関与した,つまり同期された原子の数は約10⁸個と見積もられた。すなわち,一個の光子が呼び水となって,約10⁸個の光子からなる光パルスが放出される。研究グループは,超蛍光が光の量子状態にどのように作用するのかを解明することで量子光アンプの開発につながるとしている。