日本電信電話(NTT)と東京工業大学は,テラヘルツ帯で通信が可能なアクティブフェーズドアレイ送信機を,アンテナや電力増幅器を含めすべてCMOS集積回路で実現することに初めて成功した(ニュースリリース)。
フェーズドアレイは多くの送信回路を必要とするため,シリコンCMOSプロセスの活用が有効だが,トランジスタの動作周波数の制限から,これまで300GHz帯で高性能の電力増幅器を実現することは一般的には困難だった。
研究グループは,300GHz帯フェーズドアレイ送信機を65nmのシリコンCMOSプロセスを用いて設計した。CMOSでも300GHz帯で動作する電力増幅器を実現するために,基本となるトランジスタのレイアウトを新たに最適化した。
その結果,寄生抵抗・容量の低減により,250-300GHz帯での利得が従来に比べて大きく向上し,300GHz帯での電力増幅器の設計が可能となった。このトランジスタを用いて設計した増幅器は,237-267GHzで20dB以上の利得を有し,251GHzで-3.4dBmの飽和出力電力を達成した。
また,300GHz帯雑音評価系を構築して増幅器の雑音測定を行ない,雑音指数実測値15dBを得た。送信機ICには,このトランジスタを用いた電力増幅器でオンチップのアンテナを直接駆動する増幅器ラストの構成を採用した。
さらに,サブハーモニックミキサ,移相器,4逓倍器付きのLO回路の構成を工夫し,従来の5分の1の面積に小型化することに成功し,4系統の送信回路を3.8mm×2.6mmの1チップに集積した。
次に実際に,65nmシリコンCMOSプロセスを用いて300GHz帯送信機ICチップを作製した。この4系統の送信回路を有するCMOS ICチップをプリント基板上に4つ並べて実装し,16アレイのフェーズドアレイ送信機を構成した。
さらにこの基板を4枚重ねて張り合わせることで,16×4の2次元フェーズトアレイ送信機を実現した。オンチップアンテナを除いた1系統の送信回路の送信レートを高周波プローブにより測定したところ,16QAM変調時に108Gb/s,32QAM変調時に95Gb/sとなり,100Gb/sを超える送信レートが確認できた。
また,50cmの距離での4系統の送信回路によるアンテナビームパターンは,120°の角度掃引において設計値と非常によく一致し,フェーズドアレイ動作が可能であることが確認できた。
研究グループは,300GHz帯を用いた次世代高速6G無線機の実現・普及を大きく加速させると成果だとしている。