東工大ら,大面積に塗布可能な新規超分子液晶を作製

東京工業大学と大阪公立大学は,光・電子機能を有する棒状の有機π電子系分子に,カルボン酸とアミンの脱水縮合によって形成されるアミド結合を導入することにより,100℃程度で液晶相が発現する超分子液晶の作製に成功した(ニュースリリース)。

液晶や結晶の構造はさまざまな熱力学的なパラメーターに支配されており,分子設計の段階でその構造を予測することが難しく,欲しい物性・機能を得るために必要な分子の配列は試してみないと分からないことがボトルネックとなっていた。

研究グループは,これまで棒状液晶に利用されることの少なかった極性官能基を探索し,極性官能基が示す分子間相互作用を利用した秩序構造の形成と液晶性の発現を目指した。

その中で,電子吸引性によりπ電子系分子に光・電子機能を付与することができ,シス型,トランス型の異なるコンフォメーションを持つ3級アミドに着目した。

そして,さまざまな長さの棒状の分子骨格の末端に3級アミドを導入したL字形状の分子を合成し,フェニルトラン骨格を有するPTAgroupが,秩序性の高い液晶を示すことを発見した。

得られた液晶の構造解析を行なったところ,液晶の広角X線回折測定と単結晶のX線構造解析から,固体状態から液体状態でL字型分子が共有結合を介さずに超分子的に二量体を形成し,それらが六方晶状に配列していることが分かった。

しかし,液晶と結晶ではユニット間の距離や六方晶の長軸の長さに違いが見られた。そこで温度可変赤外分光法を用いてアミド結合を観察したところ,固体状態ではシス型であるが,液晶状態ではシス型とトランス型が共存しており,シス-トランス異性化が常時起こっていることが分かった。

これらの結果と量子化学計算から,L字型分子の二量体が秩序構造を構築し,アミド結合がシス-トランス異性化を起すことで系全体に運動性を付与して液晶性を発現することが明らかとなった。

最後にPTA-groupの物性や機能を探索した。一般にπ電子系分子の蛍光発光において,分子がスタックすると蛍光強度が大きく減少する場合が多いが,PTA-groupの二量体とその集合体は,消光を起さず高い量子収率(54%)を示した。これは固体発光材料や電子材料への応用を期待させるもの。

また,PTA-groupの1つはネマチック相を発現し,高い複屈折率(Δn=0.30)を示した。このような高複屈折材料としての特徴を持つPTA-groupは,光学フィルムとして有用であると考えられる。

研究グループは,この成果ともとに,より高次な構造の構築や新しい超分子液晶のシステムを追究していくとしている。

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