大阪大学と静岡理工科大学は,安価な市販のアルデヒド化合物を原料に,太陽光と酸素から過酸を合成することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
有機過酸は,有機合成,材料科学,環境および医療の分野で多様な用途を持つ有機酸化剤として広く認識されている。中でも,メタクロロ過安息香酸(mCPBA)は,有機合成化学分野において,汎用されている市販有機過酸試薬である。
mCPBAは,酸素原子を容易に供与する独特のペルオキシ基(-O-O-)を有し,このペルオキシ基が様々な有機官能基と反応することで多様な機能性材料をする。
mCPBAの合成法としては,アミド・酸塩化物・カルボン酸を有機・無機過酸化物と反応が報告されている。しかしながら,これら既存法では過酸化物由来の大量の廃棄物が生じる。アルデヒドを原料とする過酸への自動酸化は,アルデヒドが容易に入手可能でコスト効率が高いという理由から,最も魅力的な合成法の1つとして期待されてきた。
しかしながら,アルデヒドを原料とした場合,過酸の生成が遅く,生成した過酸は速やかに原料のアルデヒドと反応してカルボン酸のみを与える問題があった。そこでこの研究では,課題①アルデヒドの自動酸化を鍵とする効率的な過酸発生方法の開発と,課題②過剰酸化による副反応抑制の二つの条件を満たす有機合成反応条件の探索を行なった。
課題①に関しては,酸素雰囲気下,太陽光(または395~405nmのLED光)を照射することで効率的に過酸を合成できることを見出した。課題②を解決するには,この反応で系中に同時に起こる様々な反応の速度(アルデヒドから過酸が生成する速度k1,生成した過酸がクリーギー中間体を経由してアルデヒドを酸化しカルボン酸を与える速度k2a,またはフェノールを与える速度k2b,生成した過酸が自己分解する速度k3)を見積もり理解する必要がある。
反応速度論と数理モデル解析の結果,これまで報告されている多くの条件では個々の反応速度がk2a>>k1>k2b≒k3であるのに対し,酢酸イソプロピルを溶媒に用いるとk2a≧k1となり他の副反応も抑制できることが判明した。
研究グループは,この結果は酢酸イソプロピルのカルボニル基α位水素が水素移動反応の水素源として機能し過酸とアルデヒドとの副反応を防ぎ,さらに過酸の生成を加速するとしている。