大阪公立大学と東京大学は,2価のニッケル(Ni2+)イオンが磁性を担う LiNiPO4では,光通信で用いる波長の光の吸収のしやすさが,光の進行方向を反転することで2倍以上変化することを発見した(ニュースリリース)。
一部の磁性体(磁石)が持つ光ダイオード効果は,光の進む向きにより透過率が変化する現象で,物質単体で発現する。そのため,複雑な構造を持つ従来の光アイソレータに代わる,よりコンパクトで光強度ロスの少ない画期的な光アイソレータへの応用が期待されている。しかし実用化へは,効果の小ささや外部から磁力を加える必要があることが課題。
光通信波長帯域における光の吸収は,電子遷移によって生じる。光は電磁波の一種のため電場と磁場の両方を持ち,通常の吸収は電場による電子遷移で起こる。一方,光ダイオード効果では電場と磁場の双方による電子遷移が重要な役割を果たし,両者の電子遷移の強さの値が近いほど光ダイオード効果が強くなる。
研究グループは,この状況を満たす物質として,2価のニッケル(Ni2+)イオンが磁性を担う酸化物に着目した。Ni2+系酸化物は多くの場合,6個の酸素イオンがNi2+の周りに八面体状に配位したNiO6ユニットを有しており,このユニットが近赤外波長帯域で巨大な光ダイオード効果を引き起こすと予想した。
この研究のターゲットであるLiNiPO4は,マイナス250℃程度以下で光ダイオード効果を発現するための対称性の要件を満たし,かつ,光ダイオード効果を巨大化させうるNiO6ユニットを有している。
LiNiPO4の単結晶を用いた測定の結果,光通信波長帯域に属する波長1,450nmにおいて,光が左方向に進む場合と右方向に進む場合で吸収係数が2倍以上も異なることを発見した。この変化の割合は,光通信波長帯域における光ダイオード効果としては過去最大であり,この効果は外部から磁界を加える必要がないことも分かった。
さらに,光ダイオード効果の極性を,外部磁場でスイッチできることを発見した。磁場によって切り替わる吸収係数の値は,スイッチを繰り返しても変化がなく,光ダイオード効果に劣化が無いことが分かる。これらの結果より,不揮発的スイッチングの可能な巨大光ダイオード効果を光通信波長帯域で実現した。ただし,この光ダイオード効果は極低温での発現に限られるという。
研究グループは,コンパクトで低損失,さらにはスイッチング可能という高付加価値をもつ光アイソレータなど,かつてない画期的な光学製品の開発につながる成果だとしている。