産業技術総合研究所(産総研)とCORE技術研究所は,ドローン空撮による橋梁インフラのたわみ計測法を開発した(ニュースリリース)。
老朽化した橋梁の健全性を評価する一手法としてたわみ計測が実施されている。ここで,設置に手間がかかる従来の変位センサーの代わりにドローンカメラでたわみ計測ができれば,山間部や海峡,河川に架かるアクセスの困難な橋梁などにおいても,効率的な点検が可能になる。しかし,ドローンなどの空撮では画像ぶれの発生により,mmオーダーのたわみ計測が困難だった。
そこで,画像ぶれを高精度で補正するために,橋梁の中央側面に設置した測定マーカー(Mk-C)に加えて,新たに二つの基準マーカー(Mk-AとMk-B)を導入した。
橋脚上の不動点となる橋梁側面にこれらの基準マーカーを設置し,二つのマーカーを結ぶ1本の基準線が橋梁の変形前後で一致するように100分の1画素(従来法の10倍以上)の精度で画像ぶれ補正を行なう。
橋梁の変形前後の測定マーカーの規則模様画像にぶれ補正を行なった後に,サンプリングモアレ法を用いて画像から生成されるモアレ縞の位相変化から微小変位を算出する。その結果,世界で初めてドローン空撮でmmオーダーの橋梁の微小なたわみ計測に成功した。
人間の耳のバランス感覚をヒントにしたシンプルかつ高精度な画像ぶれ補正技術の開発がこれを可能にした。人間は耳で感知した平衡覚の情報に基づいて,無意識に素早く目の視点と向きを常に調整している。橋梁の両端の桁に固定された二つの基準マーカー(2次元規則模様)はまさに人間の耳の役割を果たし,二つの基準マーカーを結ぶ基準線はバランス感覚に相当する。
このバランス感覚を今回のドローン空撮に応用し,全長110mのドゥルックバンド橋のたわみ計測の検証実験を実施した。橋梁から約100m離れた空中でドローン空撮を行ない,得られた画像から橋梁のmmオーダーの微小たわみが計測できた。
この実証実験では,規則模様のピッチが0.2mで大きさが1m四方のマーカーを使用して,時速20km/hで8tの試験車両が対象橋を通過した際に発生したたわみを計測した。また模擬橋梁を利用した精度検証実験では,1mmから5mmまでの既知の変位量に対して,計6回の計測結果の平均誤差はわずか0.2mmだった。
研究グループは,民間企業によってこの技術を活用した橋梁点検サービスが既に事業化されており,今後全国各地の橋梁に適用されることが期待されるとしている。