京都大学の研究グループは,高分子材料を延伸した際における高分子鎖の伸長と高分子鎖の配向により発生するひずみ誘起結晶化の度合いをそれぞれ定量的に追跡できるデュアル蛍光レシオイメージングの手法を開発した(ニュースリリース)。
ひずみ誘起結晶化は高分子材料の破断強度を高める自己補強メカニズムであり,近年注目を集めている。この現象は天然ゴムのみならず合成ゴムにおいても観測されており,最近ではひずみ誘起結晶化に基づく強靭ゲルの開発も報告されている。
しかし,どのような高分子がひずみ誘起結晶化を起こすのか,またどのようにしてひずみ誘起結晶化が発生するのかという点で未だ謎が多い。様々な測定技術によって,延伸された高分子材料の結晶化が起こる際のナノ~マイクロスケールの構造変化が追跡されてきたが,分子鎖にかかる局所的な力の情報と同時にナノ・ミクロ構造の変化を追跡することは,いまだ困難だった。
研究グループの二重発光性の羽ばたく分子(FLAP)は,高分子材料における分子鎖レベルの応力集中を定量的にレシオメトリック蛍光分析するのに最適なForce Probeの一つ。
研究グループは,ナノスケールの高分子鎖の伸長の度合いを定量的にマッピングするだけでなく,マイクロスケールで起こるひずみ誘起結晶化の進行の度合いも同時並列的にマッピングする新しい解析手法,すなわち,二重発光Force Probeを用いたデュアル蛍光レシオイメージングの手法を開発した。
高分子フィルムの延伸によって発生する蛍光Force Probe(N-FLAP)のV字型構造から平面型構造への構造変化(青から緑への蛍光スペクトル変化)に加え,N-FLAPの濃度を少しだけ高くした場合には,続いてひずみ誘起結晶化の発現に伴う緑から黄色への蛍光スペクトル変化が観察された。
2段階目の蛍光変化(緑→黄)のメカニズムを詳細に調べたところ,結晶化の進行によって緑色の蛍光が高分子内部で散乱され,短波長領域での自己吸収が促進されたことがわかった。
この鮮明な2段階の蛍光スペクトル変化はそれぞれ分子鎖の伸長とひずみ誘起結晶化に対応しており,この2つの重要な現象に対応する異なる蛍光レシオ値(青/緑および緑/黄)を基に同時並列的な定量イメージングによる追跡が可能となった。
これにより,ひずみ誘起結晶化が起こり始める段階では約70%の分子鎖(架橋部位)が伸長していると見積もられるなど,新たな高分子物理(レオロジー)の知見が得られた。
研究グループは,今後はこの手法を活かして,ひずみ誘起結晶化に基づく強靭な材料の開発を加速させることが期待されるとしている。