東京理科大学と沖縄科学技術大学院大学(OIST)は,光学活性な希土類原子を添加した光ファイバ材料を使用する単一光子光源を発明し,室温において,単一光子を直接発生させられることを実験的に示した(ニュースリリース)。
量子デバイス開発の鍵を握る単一光子光源は,欧州のベンチャー企業などで事業化へ向けた開発が進んでいる。
しかし,これらは主に半導体などの結晶材料を使用する方式の光源で,製造コストが高く,波長に制限がある上,冷却装置が必要となるなど,実用化までにクリアすべき課題がまだ多く残されている。
そこで研究グループは,室温で稼働可能かつ波長選択可能な単一光子光源の開発を目指し,光活性な希土類を添加した非晶質シリカ光ファイバによるデバイスを作成し,その特性を解析した。
今回,光ファイバに添加する材料は希土類のYb3+イオンを用いた。Yb3+イオンは基底状態と励起の2つしか持たない単純なエネルギー準位構造を持つ。しかもこれらのエネルギー準位は,一般的なレーザーダイオードの発光波長に相当する約1.2eVのエネルギーで隔てられていることから,市販されているレーザーダイオードを用いて容易に励起させることができる。
そして,Yb3+イオンを添加した光ファイバを,熱処理によって延伸加工した。Yb3+イオンが添加された熱延伸加工前の光ファイバでは光ファイバ全体から発光するが,熱延伸加工後の光ファイバでは,光ファイバ内で空間的に孤立して分布している単一原子からの発光が確認された。これは,熱延伸加工によって添加されたYb3+イオン間の平均距離が光の回折限界距離以上に分離されたため。
次に,発光が確認された単一の原子について,モノクロメータによる分光分析,および単一光子性を検証するための二次の強度相関測定実験を行なった。分光分析の結果,延伸した光ファイバ中の単一Yb3+イオンの分光解析から,延伸前のファイバと同様の非共鳴蛍光スペクトルが観測された。
また,単一Yb3+イオンから放出された光子の遅延時間に対する二次の強度相関測定からは,光ファイバ中の単一Yb3+イオンから光子が放出されていることを示す計測結果が得られた。
研究グループは,この手法は,室温において光ファイバ内で空間的に孤立して分布しているそれぞれの単一希土類原子を個別に位置特定することが可能であることから,大規模な量子光ネットワークなど,さまざまな波長で単一原子や単一光子を用いる量子技術への応用が期待されるとしている。