理化学研究所(理研)は,人工知能(AI)を用いてX線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」のビーム調整を自動的に行なうことにより輝度を大幅に向上させることに成功した(ニュースリリース)。
SACLAでは高度化の一環として,利用機会拡大を目指した複数ビームラインの高速振り分け運転,SACLAから大型放射光施設「SPring-8」への電子ビーム入射によるグリーン化などを進めてきた。
一方で,これらの高度化により加速器の制御や調整はこれまで以上に高度で複雑なものとなった。研究グループは,複雑化する運転に対して,AIの一つである機械学習手法を用いた自動調整を開発することでビーム調整の合理化,効率化を進めてきた。
SACLAではSASE(自己増幅自発放射)方式という手法を用いてXFELを発生している。この方式では,電子ビームを加速するとともに,電子密度が高い小さなビームにする必要がある。
具体的にはまず,最上流の熱電子銃から放出される超低エミッタンスビームを,その超低エミッタンスを保ちながら,入射部の7種類の大電力高周波のタイミングとバンチ圧縮器を用いて進行方向に約100万分の1倍に圧縮し,数フェムト秒程度の電子ビームを生成する。
その他,電子ビーム収束系のマッチングやアンジュレータでの電子ビームとX線の重なりなど多数のパラメータを適切に調整することで,大強度のXFELが得られる。
この複雑な多数のパラメータの最適化に対して,この研究ではAI,機械学習手法の一つであるガウス過程回帰を用いたベイズ最適化による自動調整システムを開発,構築した。
スペクトル輝度の最適化を目的としたビーム調整のために,新開発の高分解能スペクトロメータを導入した。例えば,光子エネルギー10keVのXFELの典型的なスペクトル幅はおよそ40eVだが,ビーム調整に利用可能なリアルタイム型のスペクトロメータの分解能はこれまでおよそ100eVだった。
新開発の高分解能スペクトロメータは数eVの分解能を持ち,十分な精度でリアルタイムにXFELのスペクトル幅を測定することができる。
この新設のスペクトロメータを用いて,XFELパルスごとのスペクトル幅,および,中心波長の変動幅を測定することにより実効的なスペクトル幅を計算し,レーザー強度との比をスペクトル輝度と定義し,自動調整により,ピーク波長におけるスペクトル輝度を約1.7倍と大幅に増大することに成功した。
研究グループは,今後,電子ビームのサイズや形状,バンチ長(進行方向の長さ)など,適切な性能指標を用意することで,さまざまな電子ビームやXFELに合わせた最適化が可能となることが期待されるとしている。