九州大学の研究グループは,新たなメタサーフェスを開発し,小型化された無線電力伝送(WPT)システムに導入することで,元の伝送効率を維持しながら,最大300%まで伝送距離を向上させることに成功した(ニュースリリース)。
スマートフォンや医療機器などの小型デバイスの急速な普及は,ワイヤレス充電技術の発展にとって重要な要因となった。有線充電からワイヤレス充電への移行は,利便性と使用可能なデバイスの設置場所の柔軟性を向上させた。しかし,これに伴う新たな課題も浮上した。
一つは,WPTシステムの伝送距離。従来のWPTシステムは,近距離でしか効果的に電力を伝送できない傾向があり,長距離への電力伝送は難しいという問題があった。さらに,受信機と送信機の位置のずれによるアラインメントの問題が浮上した。
さらにWPTシステムでは,受信機が送信機に正確に位置合わせされる必要があり,位置ずれが発生すると電力伝送ができなくなるという問題があった。
上記の問題に対処するために,研究グループは新たなアプローチを追求し,新しい人工誘電体であるメタサーフェスを提案した。この提案したメタサーフェスは,その特異な光学特性により,送信器と受信器間の磁場を効果的に制御し,遠距離への電力伝送を実現する。
具体的には,メタサーフェスを導入する前の40mmの伝送距離での伝送効率はわずか8%に過ぎなかったが,メタサーフェスを応用することで78%まで向上させることに成功した。また,この新たな技術の応用により,受信機と送信機の位置ずれに起因するミスアラインメント問題も大幅に改善された。
今回の成果により,研究グループは,受信器の位置に依存しない無線電力伝送システムの開発が可能になるとしている。これにより,例えば,どこでもいつでも無線で電力伝送が可能となり,タブレットや携帯電話を単に机に置くだけで充電できる技術開発への貢献が期待されるという。
また,医療分野においても,ペースメーカーや人工心臓などの埋め込み型医療機器のバッテリーを体外から充電でき,バッテリー交換のための手術が不要になるとしている。このような進歩は,ワイヤレス充電技術の広範な応用可能性を開拓し,未来の技術に大きな寄与になるとしている。