東大ら,テラヘルツパルスの位相・周波数・振幅制御

東京大学の研究グループは,一次元モット絶縁体である[Ni(chxn)2Br]Br2(chxn)において,三次の非線形光学効果を利用して,位相が可変なテラヘルツパルスを高効率に発生させることに成功した(ニュースリリース)。

テラヘルツパルスは,周波数が約 1THz(1012Hz),周期が約1ピコ秒であり,ほぼ1周期だけ振動する電磁波を指し,固体中の素励起を調べるために幅広く利用されている。

もし,テラヘルツパルスの位相,周波数,振幅を自由に変化させることができれば,そのような高速の物性制御のためにさらに有効に利用できると考えられる。

テラヘルツパルスは,通常,可視域のフェムト秒パルスを非線形光学結晶に照射して,二次の非線形光学効果である光整流効果によって発生させる。しかし,この方法では,発生するテラヘルツパルスの位相や周波数を制御することが難しいという問題があった。

そこで研究グループは,位相可変なテラヘルツパルス発生法を確立するために,周波数が𝜔と2𝜔の2色のフェムト秒パルスによる三次の非線形光学効果に焦点を当てた。

この手法では,2つの励起パルス光を物質に照射する時刻の差(t)を調整することによって,テラヘルツパルスの位相を制御できる可能性がある。この手法によってテラヘルツパルスが放射されることが報告されているが,シリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)では位相を制御できていなかった。

研究では,[Ni(chxn)2Br]Br2に2色のフェムト秒パルスを照射して奇と偶の対称性を持つ2つの励起子を生成すると,これらの励起子間に量子干渉が起こり,強いテラヘルツパルスが発生することを見出した。

この手法において,2色のフェムト秒パルスの周波数を適切に選択し,それらを試料に入射する時刻の差をアト秒の精度で調整することにより,テラヘルツパルスの位相,周波数,振幅を精密に制御できることを実証した。

さらに,この手法を利用して,一次元モット絶縁体の励起子の位相緩和時間を評価し,その値が通常の無機半導体と比較して極めて短いことを明らかにした。

研究グループは,この研究で得られた位相,周波数,振幅を制御可能なテラヘルツパルスは,今後,固体の電子状態や物性を高速に制御するための新しい励起光源として利用されることが期待されるとしている。

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