理研ら,アイスコアの微細試料採取装置を開発

理化学研究所(理研)と国立極地研究所は,レーザー融解によってアイスコアから水試料の採取を行なう「アイスコアレーザー融解サンプラー(Laser Melting Sampler:RIKEN-LMS)」と名付けた装置を開発した(ニュースリリース)。

過去の地球の気温変動を調べるには,南極氷床などのアイスコアの水の安定同位体比が分析されるが,従来の,熱でアイスコアの断面を連続的に解かすCFA(Continuous Flow Analysis)法や,アイスコア表面を高温にして爆発的に蒸散・気化させるレーザーアブレーション試料採取法では深度分解能に限界があった。

特に,南極大陸内陸域で掘削された深層コアは,深部では押しつぶされており,そこに刻まれた気温の情報を1年以下の時間分解能で取得することはこれまでできなかった。

この装置では,「サンプリングユニット」に組み込まれた直径2mmのノズルから,波長1.55μmの近赤外線レーザー光が約2Wの強度で照射される(強度は氷の状態に合わせて調整)。ノズルは氷を融解しながら氷中を進み,同時にノズルの先端底位置に開いている半月形の穴から融解水を吸い上げる。

装置をほぼ閉鎖系の構造にすることと,レーザー光の強度,ノズルの進入速度,融解水の吸引速度の三つのパラメータを最適化することで,レーザー光を氷に照射することによって引き起こされ,同位体分別の原因となる,氷の昇華や融解水の沸騰・蒸発を防いだ。

研究グループは,南極ドームふじ基地のアイスコアにRIKEN-LMSを適用し,レーザー光照射により融解した水試料を3mmという高い深度分解能で離散的に採取・分析した。

その結果,水の安定同位体比の分析値が,同じアイスコアについて手で分割した試料の分析値と,分析不定性の範囲内でよく一致することが示された。手分割した試料の分析値は真値に近いと考えられており,これにより,LMS装置の信頼性および有用性が実証された。

研究グループは,アイスコア科学分野の測定技術全体における重要なステップであり,前例のない詳細なレベルでの分析は研究分野を画期的にリードし得ると考えている。現在,各国で進行中の「最古の氷」を掘削するプロジェクトにも役立つものだとし,今後,同社発のレーザー融解サンプリング(LMS)法が世界的に広まっていくことも期待されるとしている。

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