国立天文台(NAOJ)と情報通信研究機構は,絶縁体の電気的特性を従来よりも100倍正確に測定できる解析方法を考案した(ニュースリリース)。
電波望遠鏡では,宇宙からやってきた電波がアンテナから受信機に導かれる途中で,レンズを通過することがある。天文学者たちが求める性能通りに電波望遠鏡を開発するためには,レンズの誘電率を正確に測定することが必要となる。
また通信の分野でも,通信機器に使われる回路基板やアンテナの材料の誘電率や,電波が通過する建物に使われる建材の誘電率を,正確に測定することが求められている。誘電率を正確に測定できる方法の一つに「共振器法」がある。
この方法では,測定したい材料を共振器と呼ばれる装置に入れて測定することから,材料を共振器に収まるサイズに精密加工する必要がある。また,いくつかの特定の周波数における誘電率しか測定できないという難点がある。
装置の開発段階ではいろいろな材料の誘電率を測る必要があるため,測定のたびに高精度加工が必要となると開発に時間がかかってしまう。一方でこれらの難点が少ない「自由空間法」も用いられる。この方法では測定結果の解析に近似が用いられているため,これに起因する誤差によって正確な測定が困難であるという難点があった。
研究グループは,電磁波伝搬の計算手法を工夫することによって,「自由空間法」を用いながらも近似ではなく厳密に誘電率を導き出す解析アルゴリズムを開発した。解析手法の妥当性を検証したところ,従来の解析方法に比べて,近似に起因する誤差を100分の1に低減し,誘電率を正確に計測することが可能であることを実証できた。
また,アルマ望遠鏡のために開発されている受信機のレンズ材料候補を実測したところ,他の測定手法と一致する結果が得られ,実際のデバイス開発における有用性が示された。これにより,ミリ波/テラヘルツ帯における材料の誘電率を,広い周波数帯域にわたって,連続的かつ正確に計測する技術を確立したことになる。
近似に起因する誤差を100分の1に低減できたことは,開発のスピードアップにもつながる。個々の材料の誘電率の測定が不正確だと,実際に作製した製品が目標とする性能を満たさない場合がある。設計の段階から正確な誘電率を把握できていれば,不要な試行錯誤を減らすことができ,開発コスト削減も可能になる。
研究グループは,電波望遠鏡の部品設計に限らず,ミリ波/テラヘルツ帯を利用する次世代通信網(Beyond 5G/6G)の実現に向けた,高周波材料やデバイス開発への貢献が期待されるとしている。