分子研,メタン酸化光触媒反応を分子レベルで解明

分子科学研究所の研究グループは,リアルタイム質量分析とオペランド赤外吸収分光を組み合わせることで,非熱的なメタン酸化光触媒反応のメカニズムを分子レベルで解明した(ニュースリリース)。

メタン(CH4)は天然ガスやバイオガスに含まれ,持続可能社会における炭化水素資源として期待されている。また,メタンの温室効果は二酸化炭素(CO2)の約25倍であるため,温室効果ガスの低減という観点からもメタンの有効利用は重要な研究課題となっている。

しかし,メタンは化学的に安定であるため,従来の触媒反応では700℃以上,20気圧以上といったエネルギー多消費な反応プロセスが必要になる。そこで,光や電気を駆動力とする非熱的な触媒・化学技術によって持続可能かつ常温常圧でメタンを有効利用する手法が研究されている。

メタンを化学資源として有効利用するためには適切な触媒を用いることで目的の反応を選択的に促進することが求められる。酸化物半導体に代表される光触媒では,触媒表面において非熱的に生じる光誘起正孔がメタン酸化反応を誘起することが知られている。

しかし,触媒表面でのメタン酸化反応のメカニズムは分子レベルでは未解明な点が多く,触媒材料に応じた酸化反応の選択性の違いの起源は明らかとなっていなかった。今後,実用的な光触媒を戦略的に設計するために,この反応メカニズムを微視的に解明することで適切な材料設計・反応制御の指針を得ることが求められていた。

今回研究グループは,光を反応駆動源とした非熱的反応系において,金属助触媒は光誘起電子を捕捉・蓄積して専ら還元反応場として機能すると従来考えられてきたが,実際は光誘起正孔を捕捉・蓄積する酸化反応場としても機能することを明らかにし,半世紀に渡る光触媒の常識を刷新した。

今回見出された「金属助触媒が光誘起正孔を蓄積して酸化反応も誘起可能である」という知見は,「金属助触媒は光誘起電子を捕捉・蓄積して専ら還元反応のみを誘起する」という半世紀に渡る光触媒研究の常識にパラダイムシフトをもたらすものであり,金属助触媒のエンジニアリングによって非熱的反応の酸化選択性を制御できる可能性が示されたとする。

メタンと水というユビキタスで一般性の高い分子において得られた今回の知見は,より複雑な反応分子系のメカニズムを理解する際の基礎学理となることが期待され,持続可能な物質変換・エネルギー変換を実現する重要な環境エネルギー化学技術のプラットフォームである非熱的な触媒反応系の高度化・高機能化に貢献することが期待されるとしている。

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