東京工業大学と高輝度光科学研究センターは,地球型惑星のコアの主成分である液体純鉄の電気伝導度(電気抵抗率の逆数)を,140万気圧・6,000度という地球コアの環境とほぼ同じ極限環境下で決定することに成功した(ニュースリリース)。
太陽系内の地球型惑星(水星・金星・地球・火星)は,液体状態の鉄を主成分とするコアを持ち,液体コアの対流は地球型惑星に固有磁場を持たせる要因となっている。また、惑星内部の冷却に伴い固体鉄を主成分とする内核が誕生・成長する。
地球型惑星が示す磁場の有無の原因や内核の誕生時期の解明には,液体純鉄の電気・熱伝導度が鍵となる。しかし,技術的な困難さのため,地球よりも小さい水星や火星の中心条件(約40万気圧に相当)ですら,これまで信頼性の高い液体鉄の伝導度測定に成功していなかった。
研究グループではこれまで,高温高圧下での電気伝導度測定を実現するべく,内部に微細な電気抵抗測定用回路を備えたダイヤモンドアンビルセル装置の開発・利用を進めてきた。
今回,鉄試料全体を硬いサファイア単結晶で覆う「サファイアカプセル法」を新たに考案・実装し,融解時の鉄試料の変形や化学反応を抑えることに成功した。さらに,レーザーにより瞬間的に加熱された鉄試料の電気伝導度,温度,結晶構造を,ミリ秒の時間スケールで計測する「瞬間抵抗検出法」を開発した。
瞬間抵抗検出法は,SPring-8に導入された世界最新鋭の高速X線検出器によって実現した手法であり,融解時の試料変形が起こる前に電気伝導度を測定することを可能にした。今回の開発により,太陽系の地球型惑星コアの圧力条件を網羅する35〜140万気圧の範囲での液体鉄の電気伝導度の決定が実現した。
研究で得られた地球コア条件での液体純鉄の電気伝導度は,理論計算によって報告されている伝導度を支持し,そこから予想される地球内核形成開始年代はおよそ7億年というこれまでの予想と合致した。
また,融点における液体鉄の電気伝導度(電気抵抗率)が約50万気圧から急激に増加(減少)することを明らかにした。これは,水星・火星と金星・地球のコア圧力条件では液体鉄の伝導度に2倍近い差が生じ,惑星の冷却速度にも同様の差が生じることを意味する。
地球型惑星の大きさ(内部圧力)の違いがコアの伝導度を支配する一因であることを突き止めたことで,地球型惑星の磁場や熱進化の多様性の理解が今後進展すると期待されるという。
研究グループは,形成直後の地球型惑星から,現在の姿までの熱進化過程とその間の惑星ダイナミクスの理解が今後更に進展することが期待されるとしている。