横浜国立大学の研究グループは,ガーネット–サファイア共晶系における秩序構造の化学気相析出に成功した(ニュースリリース)。
セラミックス共晶系の一方向性凝固共晶体(DSE)や融液成長複合材料(MGC)は,1990年代に高温強度や耐久性に優れるセラミックス複合材料として報告され,航空宇宙用途の高温構造材料として注目を集めた。
2000年代に入って,秩序構造を利用した放射線撮像の高分解能化が研究されたが,溶融凝固法では,DSEやMGCを大面積に均質に製造することは困難だった。近年マイクロメートル厚さの厚膜蛍光体の開発が,次世代の白色LED照明やX線撮像の要とされているが,溶融凝固法で育成した共晶体を切断研磨する方法は,大きな製造コストを要する。
またガーネット–サファイア共晶系においては,特に優れた物性の発現が期待されるロッド状秩序構造の合成ができなかったこともあり,いずれも実用化には至っていない。
今回研究グループは,ガーネット–サファイア共晶系における秩序構造の化学気相析出に成功した。研究グループで自作した化学気相析出装置を用いて,サファイア基板上に10~20μmの厚みを持つYAG–Al2O3共晶体を合成した。原料ガスとしてイットリウム(Y),アルミニウム(Al)に加えて,ユーロピウム(Eu)およびセリウム(Ce)の有機金属化合物と酸素ガスを用いた。
これにより,Y3Al5O12 (YAG)–Al2O3共晶系において,α-Al2O3結晶中にサブミクロンサイズのYAG結晶が周期的に配列した構造や,その逆の構造を合成できた。蛍光発光スペクトルは分光光度計を用いて測定し,X線撮像試験は汎用X線源とCMOSカメラを組み合わせた撮像系を自作して実施した。
その結果,溶融凝固法と比べ,気相法では自己組織化が起こる化学組成範囲が広いことがわかり,ガーネット系の溶融凝固体では報告がなかったロッド状結晶の秩序構造が新たに見つかった。
今回,産業応用に向けてYAG相にEu3+やCe3+イオンといった発光中心を微量添加したガーネット–サファイア共晶系蛍光体を合成し,X線イメージングや白色発光のデモンストレーションに成功した。
研究グループはこれらの蛍光体について,高分解能X線撮像技術や耐環境性に優れる白色LED固体照明への応用が期待されるほか,セラミックス共晶体を気相から直接合成できるようになることで,自己組織化した厚膜蛍光体を効率よく製造できるだけでなく,秩序構造をもつセラミックスのコーティングや3Dプリント技術への応用が期待できるとしている。