東京大学の研究グループは,葉緑体ゲノム上の特定の一塩基を別の種類に書き換える酵素(標的一塩基置換酵素)を改良し,これまで置換しにくいとされてきた塩基配列においても狙った一塩基を置換することに成功した(ニュースリリース)。
植物の細胞内で光合成を担う葉緑体は独自のゲノムを有しており,そこには光合成を行なうために重要な遺伝子が存在する。これらの遺伝子を改変して植物のエネルギー生産効率を高めることができれば,食糧供給問題の解消や,地球環境への負担の少ないバイオ燃料の供給増加に貢献できる可能性がある。
葉緑体のゲノム編集は,2021年に達成,発表された。これは,葉緑体移行シグナル配列を付加した標的一塩基置換酵素ptpTALECDを用いて,葉緑体ゲノム上の狙ったシトシン(C)をチミン(T)に置換する手法で,細胞当たり数百から数千個ある葉緑体ゲノムの全てで標的塩基を置換することができる。
ptpTALECDはTやAの直後に位置するCを置換できることが分かっていたが,グアニン(G)やCの直後のCを置換するのは酵素の性質上難しいとされており,置換できるか確認されていなかった。
研究では,ptpTALECDに加えて,改良型のptpTALECD(ptpTALECD_v2,高活性型の塩基置換ドメインを有する)を用いて,酵素活性が実際に向上するかどうか,並びにこれまで置換されたという報告がなかった,GやCの直後のCを置換できるかどうかを検証した。
その結果,ptpTALECD_v2はptpTALECDと比べて塩基置換活性が高い一方で,本当に置換したい塩基だけでなく標的以外の塩基も置換しやすいことが分かった。そのため,標的塩基のみが置換された植物体を得るためには,まずptpTALECDによって標的塩基の置換を試み,それでも標的塩基を置換できなかった場合にptpTALECD_v2を用いるのが良いと考えられ,ゲノム編集酵素の選択肢を広げることができた。
また,GやCの直後のCを置換できることが分かったため,葉緑体ゲノムのより多くのシトシンが置換の対象候補になった。したがって研究グループは,標的一塩基置換技術が葉緑体ゲノムの基礎研究に役立つことや,葉緑体ゲノムを利用した作物品種改良のための基盤技術になることが期待されるとしている。