大阪大学の研究グループは,温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)を有用なメタン(CH4)にほぼ100%の選択性で変換できる金属製自己触媒反応器の作製に,レーザー金属3Dプリンティング(AM)技術と電気化学的表面処理を組み合わせることで成功した(ニュースリリース)。
CO2のメタン化,いわゆるサバティエ反応は,高密度でエネルギーを貯蔵するだけでなく,CO2を無毒で豊富なC1原料として利用することで大気中のCO2削減を指向したカーボン ニュートラルサイクルを実現する手法としても有望視されている。
安定性の高いCO2のメタン化には大量のエネルギー投入が必要であるため,一般に活性化エネルギーを下げて変換を促進するために信頼性の高い触媒開発が研究されている。さらに現状では,粉末状の金属ナノ粒子担持触媒を充填した反応器が用いられているが,化学プラントの省エネルギー化に向けて新たな触媒形状を提案する必要がある。
研究グループは,レーザー金属AMプロセスでチャンネル構造を付与し,電気化学的表面処理により触媒機能を示す活性金属を表面に露出させることで,触媒機能と反応管としての機能を併せ持った金属製の自己触媒反応器(SCR:Self Catalytic Reactor)を作製した。
今回,原料に用いたHastelloy XはNi-Cr-Fe-Moなどを主成分とした固溶強化型合金であり,高温強度,耐酸化性に優れ,宇宙航空用途に使用されている。レーザー金属AMプロセスで作製した反応管は触媒機能を示さないが,最適な印可電圧のもとで電気化学的表面処理を施すと,触媒作用を示すNi金属を表面に露出させることができる。
触媒性能を,環境・エネルギー分野で切望されている二酸化炭素(CO2)の資源化反応にて評価したところ,100%近い選択性でメタン(CH4)が得られた。
また,400⁰Cで数日間利用しても活性が変化しないだけでなく,NaOH水溶液に浸すだけで自己溶解メカニズムにより表面の再構築が起こり,触媒活性が向上した。さらに,レーザー金属AMプロセスのスキャンストラテジーにより,結晶方位が変化し,それにより触媒性能が変化することを示した。
開発した金属製の自己触媒反応器は,レーザー金属AMプロセスを利用することで多様な触媒プロセスに最適な構造を提案できる,安定性が高く触媒の交換が容易なバルク状であるなど,実用化触媒に不可欠な基盤要素を兼ね備える。
また,CO2資源化反応において,実用触媒に資する性能を示した。研究グループは,レーザー金属AMプロセスによる触媒性能のカスタム制御の可能性を秘めるとしている。