名古屋工業大学の研究グループは,UV照射型3Dプリンターの新しい利用法に基づき,「デジタルフォトパターニング重合」という異種ポリマーのパターニング技術を開発した(ニュースリリース)。
自然界では,硬軟層の適材適所のパターニングにより多機能な性質が実現されている。例えば,昆虫・甲殻類の身体では,それを形成するクチクラにおいて,基材であるキチンファイバーと複合化された物質の種類および量などによって,ゴムレンジ(~MPa)からガラス・無機物レンジ(~GPa)まで段階的な弾性率パターニングが表現されている。
また昆虫の翅(羽)では,なるべく軽量で高効率飛行を実現するため,特徴的なタイルパターニング構造が備わっており,揚力を稼ぐための最適な曲げ・ねじり変形が印加されるよう潜在的にプログラムされている。
研究グループは,これらのように自然界でよく見られる”パターニング”の概念を人工樹脂にトレースするための技術を開発した。そのプロセスはまず,架橋樹脂フィルムをビニルモノマー・光重合開始剤溶液へ浸漬し,モノマーを内包させる。
次に,UV光を用いた光重合により,内包モノマーをポリマー化する。その際,光照射型の3Dプリンター(LCDタイプ)を用いて,パソコン上で描いた光照射箇所のデザインをフィルム上に転写し,重合を箇所選択的に進行させる。
その後,未反応モノマー除去・乾燥を経て,異種ポリマーが光照射パターンに沿って複合化したパターニングフィルムが得られる。この方法では,複雑な構成ポリマーの合成は不必要であり,デザインソフトを用いてデジタルな方法で多様なパターニングが可能。パターニング界面は化学的に連結されるため接着プロセスが不必要で,大変形での界面剥離の問題もない。
この技術に基づき,力学的異方性材料や,親水-疎水パターニングよる局所ゲルフィルム,座屈現象に基づくモーフィングなどユニークな特性を示すパターニング樹脂が調製可能となった。
将来構想としては,異種ポリマーの自在のパターニングにより,特に力学的性質に関する機能開拓を行ない,先端産業分野(ロボティクス・ドローン・ウェアラブルデバイス・フレキシブルデバイスなど)などへの展開が可能だとする。
さらに,構成ポリマーの性質さえ把握しておけば,計算科学・シミュレーションの力を借り,各パターニング様式に応じた最終的な性質をあらかじめ設計することができるため,研究グループは,新たな機能発現につながることが期待されるとしている。