静岡大学と名古屋市立大学は,光を当てないで(物理的相互作用をしないで)物の存在と位置を同時に判定できる量子光学的手法の開発に成功した(ニュースリリース)。
近年,観測対象に光子を1個も当てないのに,物体が存在することがわかる観測方法が考案されている。この方法は,量子光学の分野において“相互作用フリー測定(Interaction Free Measurements)”という名前で呼ばれている。
しかし,現段階までの研究において,この相互作用フリー測定を用いて物体が存在することを示せる確率は25%程度と非常に低く,また,物体の位置情報まで入手することはできなかった。
研究グループは,光ファイバーを用いたリング型共振器を多数列接続することによって,光を当てないで(相互作用をしないで),リング型共振器のどの位置に物体が置かれているかを100%の確率で判定できる量子光学的手法の開発に成功した。
リング型共振器を縦に5個配置した構成となっている。物体は5個の円周のどこか1箇所に配置する。リング型共振器の干渉効果を利用することにより,1光子がこのリング型共振器に入射した場合,物体が無い場合は最後のPortにまで到達し,このリング型共振器内に物体が無いことを100%の確率で示すことができる。
一方,リング型共振器内のどこかに物体が配置された場合は,そのPortから先のリング型共振器の干渉が破壊されるため,物体より手前に配置された光検出器が1光子を検出することになり,物体の位置情報を100%の確率で判定することができる。
さらに,リング型共振器を利用することによって,物体に埋もれた中から抜け穴を探すような応用も可能。物体に埋もれた中から抜け穴を,1光子と物体が実際に相互作用することなく,探すことが可能となる。
この研究成果は,例えばエネルギーの高い(物体を破壊しやすい)X線において,X線を当てないでも物体の存在および位置情報を得ることができる技術に繋がるため,将来のより安全なX線撮影技術に大きく貢献できるものだという。
研究グループは,今回の研究成果を,現在開発が盛んに行なわれているマイクロ光デバイス(微小球や微小リング共振器が多数並んだ構造)へ応用することによって,微弱な光照射でも壊れてしまう分子や生体物質の分析や,画像計測技術の発展にも大きく寄与できるとしている。